JICE 一般財団法人国土技術研究センター

国土を知る / 意外と知らない日本の国土

地震の多い国、日本

わたしたちは、日本で地震じしんが起こるのは当たり前だと思っています。でも地震じしんが起きない国もあります。

どれくらいの地震じしんが日本で起こっているのでしょうか。わたしたちは、地震じしん津波つなみが起こることに備えて、地震じしんが起こらない国に住んでいる人と比べて、どんなことをしているのでしょうか。

地震じしん津波つなみによって、どれくらいの被害ひがいを受けてきたのでしょうか。

起こって当たり前と思っている地震じしんのことを考えてみましょう。

日本付近でマグニチュード6の地震じしんが全世界の17.9%も発生する

下の図は、2016年〜2022年3月16日までで日本付近で発生した主な被害ひがい地震じしん(マグニチュード5.0以上)の震央分布しんおうぶんぷを示しています。2011年〜2020年でみるとマグニチュード6.0以上の地震(じしん)は、全世界の17.9%が日本周辺で発生しています。

図 日本付近で発生した地震の分布図

¶豆知識 − マグニチュードとは地震(じしん)のエネルギーの単位

地震じしんが起きたときに発表されるマグニチュードとは何でしょうか。マグニチュードとは、地震じしんが出すエネルギーの大きさを示す単位です。アルファベットの「M」で表します。アメリカの地震じしん学者がくしゃチャールズ・リヒターが考案したので、専門家せんもんかは「リヒター・マグニチュード」と言うことがあります。このほか、地震学じしんがくでは「モーメント・マグニチュード」、日本では「気象庁きしょうちょうマグニチュード」など、計算方法によってマグニチュードの種類がいくつかありますが、小学生・中学生にはむずかしいのでここではお話ししません。

マグニチュードが0.2大きくなるとエネルギーは約2倍、1大きくなるとエネルギーは約32倍、2大きくなると約1000倍になります。マグニチュード2.0とマグニチュード4.0とでは地震(じしん)のエネルギーは2倍ではなく1000倍ちがうのです。

マグニチュード

¶豆知識 − マグニチュードと震度しんど

マグニチュードと震度しんどの関係は、電球の明るさと部屋の明るさに似ています。

明るい電球は遠くまで照らすことができます。電球の真下では明るいですが真下から離れると少し暗くなります。暗い電球は遠くまで照らすことができません。でも、電球を近くまでせれば、真下ならば明るいです。

図 電球と明るさの関係

地震じしんも同じです。マニグチュードが大きい地震じしんは遠くまで伝わります。震源地しんげんちに近いと強くゆれます。マニグチュードが小さい地震じしんは遠くまで伝わりません。震源地しんげんちに近くとも強くゆれません。しかし、地震じしんが浅い地下で起きたならば、地面までの距離きょりが近い分だけ地震じしんは強くなります。

図 マグニチュードと地震の関係

それでは、震度しんどの数字によって、どれくらいの地震じしんの強さがちがうのでしょうか。震度しんどは、震度計しんどけいという機械で測ります。震度計しんどけい地震じしんのゆれを感知して、計算式をつかって震度しんどの数字をもとめます。 「震度しんど0」「震度しんど1」「震度しんど2」「震度しんど3」「震度しんど4」「震度しんど5弱」「震度しんど5強」「震度しんど6弱」「震度しんど6強」「震度しんど7」の10段階だんかいがあります。

図 震度とゆれの大きさ

日本は、地球上で地震じしんが起きやすい場所にある

地球は主に岩石でできていますが、地中深くにいくほど温度が高くなっているため、「マントル」という物質ぶっしつが地球の内部で対流しています。地球の表面近くでは、「プレート」という厚さ数10kmから100kmの板のようなかたまりになっていて、1年間に数cmという速さで移動しています。地球の表面には、こうしたプレートが大きく14〜15枚あり、マントルが地球内部で対流する動きに乗ってそれぞれの方向に移動しています。

プレートがぶつかる境目さかいめでは、一方のプレートがもう一方のプレートの下に沈みこんだりしています。その結果、地面がり上がって高い山脈ができたり、沈みこむところが海だと、そこは深い「海溝かいこう」になります。

地震じしんは、プレートどうしがぶつかる摩擦まさつが原因で起こります。世界で地震(じしん)が発生する場所は、プレートどうしがぶつかる地点のまわりです。

図 火山噴火の仕組み

●日本は世界でもめずらしい4つものプレートが集まる地点にある

日本列島は「ユーラシアプレート」と「北米ほくべいプレート」の上に乗っていますが、「太平洋プレート」が西向きに移動してきて「北米ほくべいプレート」にぶつかり、「日本海溝かいこう」などで地下にもぐりこみます。また、「フィリピン海プレート」は北向きに移動してきてぶつかり、「南海なんかいトラフ」で地下にもぐりこみます。このプレートどうしの摩擦まさつが原因で地震じしんが起こります。

図 世界の主なプレートと地震の分布図

¶豆知識 − 日本列島もプレートの上に乗って動いている

プレートの上に乗っている日本列島も、プレートの動きにあわせて動いています、太平洋プレートとフィリピン海プレートは日本列島の太平洋側を西や北西方向にし、ユーラシアプレートは日本列島の日本海側を東や南東方向にしています。両方からされてり上がってできたのが、日本列島の真ん中を背骨せぼねのようにつらぬいている山脈です。

図 日本列島の10年間の移動(2000年5月〜2010年5月)

¶豆知識 − 伊豆いず半島はんとうと本州がぶつかっている神縄かんなわ断層だんそう

かみなわ断層だんそうは、神奈川県かながわけん松田町まつだまち山北町やまきたまちから静岡県しずおかけん小山町おやまちょうにかけての断層だんそうです。伊豆いず半島と本州との間のプレートの境目の断層だんそうとして有名です。静岡県しずおかけん小山町おやまちょうでは、その伊豆いず半島と本州のぶつかった地点を実際に目で見ることができます。

小山町教育委員会が作成した説明の看板かんばんによると、 今から約1500 万年前、伊豆いず半島はんとうは今の小笠原おがさわら諸島しょとうあたりにあった島でした。フィリピン海プレートの動きに乗って少しずつ北上して約100 万〜 50 万年前に本州とぶつかりました。伊豆半島は本州にぶつかっても北へ動きつづけ、そのために丹沢たんざわ山地さんちり上げられたということです。

写真の断層だんそうの線から左側は本州で、右側が伊豆いず半島はんとうです。本州側は丹沢たんざわ山地さんちをつくっている凝灰岩ぎょうかいがんという地層ちそう伊豆いず半島はんとう側はれき層という石の地層ちそうです。

写真 伊豆半島と本州のぶつかった地点 静岡県小山町神縄断層

プレートの境目で起こる地震じしん断層だんそうが動いて起こる地震じしん

日本で起こる地震(じしん)には、大きく、プレートの境目で起こる地震じしん断層だんそうが動いて起こる地震じしんがあります。

図 地震が起こる原因

¶豆知識 − 震源しんげん震源域しんげんいき震央しんおう

地震じしんは、地中で地層ちそう岩盤がんばんが引っ張られたりしつぶされたりするなど大きな力が加わり、えきれなくなったときに起こります。一番最初にえきれなくなって破壊はかいが起こった地点を「震源しんげん」と言います。「震源しんげん」の真上にある地表が「震央しんおう」です。

震源しんげんから始まった地層ちそう岩盤がんばんれるなどの破壊はかい震源しんげんのまわりにも広がります(「震源しんげん断層だんそう」と言います)。この破壊はかいが広まった範囲はんいが「震源域しんげんいき」です。地震じしんは、震源域しんげんいきの全体から発生します。

図 震源・震源域・震央

くり返し同じ場所で発生する地震じしん

過去に地震じしんが起きた記録を調べると、大きな地震じしんは同じ場所でくり返し起こっていることがわかりました。

東海とうかい東南海とうなんかい南海なんかい地震じしん

フィリピン海プレートがユーラシアプレートの下にもぐりこむ「南海なんかいトラフ」のまわりでは、地震(じしん)があったことを伝える文献ぶんけん記録や地質ちしつ調査ちょうさなどから、東海とうかい地震じしん東南海とうなんかい地震じしん南海なんかい地震じしんが、およそ100から150年くらいの年月の間でくり返し発生していることが分かりました。

東海とうかい地震じしん東南海とうなんかい地震じしん南海なんかい地震じしんはそれぞれがマグニチュード8になるような巨大きょだい地震じしんで、強い地震じしんのゆれのほか、津波つなみも発生し、大きな被害ひがいを何度も出してきました。しかも、3つの地震じしんは過去に連続して起こることがあったので、今後も、連続して起こるのではないかと心配されています。

図

図 くり返し発生する東海・東南海・南海 連続地震

●南関東の地震じしん

東京を中心とする関東地方の南部では、200年から300年に1度、関東大地震じしん(関東大震災しんさい)と同じようなマグニチュード8の巨大きょだい地震じしんが起こっています。過去にはマグニチュード8の巨大きょだい地震じしんは、1703年と1923年に発生しました。このため、あと100年くらいはマグニチュード8の巨大きょだい地震じしんは起こらないと予想されます。

しかし、マグニチュード8の巨大きょだい地震じしんがくる間に、マグニチュード7の直下型ちょっかがた地震じしんが何回か発生しています。関東地方の真下で起こると予想されているので、東京の真下でマグニチュード7の地震(じしん)が発生することが心配されています。

図 南関東で発生した地震

日本に活断層かつだんそうは約2000あると推定されている

地震じしんの原因の1つに「活断層かつだんそう」があります。活断層かつだんそうでは、過去に地震じしんがくり返し発生しており、今後も地震じしんが発生すると考えられています。

下の図は、日本の主な活断層かつだんそうです。日本には約2000の活断層かつだんそうがあると推定されています。その中で主要活断層体しゅようかつだんそうたいは114とされ、政府せいふ地震調査研究推進本部じしんちょうさけんきゅうすいしんほんぶにおいて、主要断層帯しゅようだんそうたいについて活動度かつどうど評価ひょうか順次公表じゅんじこうひょうされています。

図 日本の主な活断層

1891年(明治24年)の濃尾のうび地震じしん、1948年(昭和23年)の福井ふくい地震じしん、1955年(平成7年)の兵庫県ひょうごけん南部なんぶ地震じしん(=阪神はんしん淡路あわじ大震災だいしんさい)、2007年(平成19年)の新潟県にいがたけん中越ちゅうえつおき地震じしんなどの大地震じしんは、活断層かつだんそうが動いたことが原因です。例えば、兵庫県ひょうごけん南部なんぶ地震じしん(=阪神はんしん淡路あわじ大震災だいしんさい)の原因となった淡路あわじしまの「野島のじま断層だんそう」は、断層だんそうを境に右横に0.9〜1.3mずれ、南東側が0.2〜0.5mり上がりしました。

国の地震じしん調査ちょうさ研究けんきゅう推進すいしん本部ほんぶでは、主な活断層かつだんそうについて、予想される地震(じしん)の大きさや地震じしんが起こる確率かくりつ(何年以内に地震が起こる可能性)などを研究して、発表しています。

写真 岐阜県本巣市の根尾谷断層(濃尾地震の原因)、兵庫県淡路島の野島断層(兵庫県南部地震の原因)

世界でもマグニチュード8以上の巨大きょだい地震じしんが起きている

地震じしんは日本だけでなく、世界で起こっています。1900年以降いこうに世界で発生した巨大きょだい地震じしん上位10位をあげてみると、東日本ひがしにほん大震災だいしんさいのあった日本、インドネシア、南アメリカのチリやエクアドル、北アメリカのアラスカ、ロシアのカムチャッカ半島など太平洋をぐるりと囲んでいるようです。

2011年(平成23年)3月11日に日本で起きた「東北地方太平洋沖地震(じしん)」はマグニチュード9.0という日本の観測かんそく史上しじょう最大さいだい地震じしんでしたが、世界でも第4位になるちょう巨大きょだい地震じしんでした。

図 世界のマグニチュード6以上の震源分布とプレート境界

表 1900年以降に発生した世界の大きな地震(2017年3月3日現在)

地震(じしん)で、建物がたおれたり、火事が起きたり、津波つなみなどによって犠牲者ぎせいしゃがでる

地震(じしん)が起こることで、建物がたおれたり、火事が起きたり、津波つなみが海岸付近などにおしよせるといった被害ひがいを受けることがあります。このため、死者や行方不明者が出ることがあります。

大震災だいしんさい」とばれる大きな地震じしん被害ひがいを見ると、なぜ犠牲者ぎせいしゃが多く出たのか特徴とくちょうがあります。 1923年(大正12年)に発生した関東かんとう大震災だいしんさいでは、死因しいんの87%が火事によるものです。発生時間が11時58分という昼食時間だったこともあり、火事が発生しました。能登のと半島はんとう付近に台風がいたため、関東地方では強い風がふいていたことも火事を大きくする原因になりました。

1995年(平成7年)に発生した阪神はんしん淡路あわじ大震災だいしんさいでは、死因の83%が建物がたおれて下敷したじきになったりけがをしたことでした。朝5時46分に発生したため、ほとんどの人はまだていました。ているところに、古い木造の住宅がたおれてきて体がつぶされたり、タンスなど家具がたおれてきて体にあたって大けがをするなどしてくなる人が多くでました。コンクリートの建物でもたおれたり、ある階だけがつぶれたりしました。

2011年(平成23年)に発生した東日本ひがしにほん大震災だいしんさいでは、マグニチュード9という超巨大ちょうきょだい地震じしんでしたが、地震(じしん)によって建物がこわされるという被害ひがいは多くありませんでした。それだけ、日本の建物は地震じしんに対して強く作れるだけの技術が発展はってんしたということです。

しかし、地震後じしんごに海岸をおそった津波つなみで多くの人が水死しました。そんなに大きな津波つなみではないだろうと油断していたり、避難ひなん場所ばしょげてきたのに、その避難ひなん場所ばしょさえも飲みこむほど大きな津波つなみでした。また、津波つなみからげるために自動車に乗っている途中とちゅうで自動車ごと津波つなみにさらわれてくなる人が多く出ました。

死因

地震じしんのある国とない国のちがい

下の2つの写真を比べてください。両方とも、高速道路の橋脚きょうきゃくです。左は、日本の高速道路、右はフランスの高速道路です。どうちがうでしょうか。

日本の高速道路の橋脚きょうきゃくは太いです。これくらい太くして、コンクリートの中に鉄筋てっきんをたくさん巻かなければ、地震じしんの力にえることができません。地震じしんだけでなく、台風もやってきますから、強風にもえられるように頑丈がんじょうに作らなければなりません。

また、日本の平野や盆地は、地球の氷河期ひょうがきが終わったあと、川が運んだ土砂どしゃなどが積もってできたものですから新しくやわらかい地盤じばんです。このため、地下深くまで橋脚きょうきゃく基礎きそを入れないと、橋が安定しません。

それに対して、地震じしんのないフランスでは、日本のように太い橋脚きょうきゃくは必要ありません。地震じしんの力にえるように鉄筋てっきんをたくさん使う必要もありません。ヨーロッパのい地盤じばんは、氷河期ひょうがきよりも前の時代にできていたため、古くてかたいです。日本ほど地下深くまで橋脚きょうきゃく基礎きそを入れる必要もありません。

橋や建物などを作るにしても、日本では地震じしんえられるようにするために、ヨーロッパよりも余分にお金をかけて頑丈がんじょうに作らなければならないのです。

日本とフランスの橋脚

津波つなみによって大きな被害ひがいを受けてきた

海底を震源しんげんとする地震じしんが発生した後は、津波つなみに注意しなければなりません。

地震じしんが起きると、震源しんげん付近では地面がはげしく上下します。これによって海水全体が急にし上げられて、大きな波となって四方に広がって行きます。

津波つなみは、海が深いほど速く伝わり、浅くなるほど速度がおそくなります。水深5000mの海ではジェット飛行機と同じくらい、水深100mでも高速道路を走る自動車と同じくらいの速さで伝わります。

日本は何度も津波つなみ被害ひがいにあいました。海岸近くに住む人々は、高い防潮堤ぼうちょうていをつくったり、津波つなみが来ないような高いところに家を建てたりしました。

東日本ひがしにほん大震災だいしんさいが起こる前までの日本で一番大きな津波つなみは、1896年(明治29年)の明治めいじ三陸さんりく津波つなみと言われています。岩手県や宮城県の三陸海岸は日本を代表するリアス式海岸として有名です。このとき発生した地震じしんそのものは震度しんど2〜3程度ていどのものでしたが、その後の津波つなみにより大きな被害ひがいを受けました。現在の岩手県大船渡市おおふなとし綾里りょうりわんでは、本州で観測された津波つなみの高さでは最も高い38.2mの「遡上そじょうこう」を記録しました。

昭和8年(1933年)の昭和しょうわ三陸さんりく地震じしんでも、三陸海岸は津波つなみの大被害(ひがい)を受けました。特に被害ひがいがはげしかったのは岩手県田老たろう村(現在の宮古市みやこし田老たろう地区)で、津波つなみによって全戸数362戸のうち358戸が流され、人口1798人の44%にあたる792人が死亡しました。この被害ひがいをきっかけに、田老地区では町を取り囲むように、高さ10mの巨大きょだい防潮堤ぼうちょうていが建設されました。

この防潮堤ぼうちょうていは、1960年(昭和35年)のチリ地震じしん津波つなみから田老地区を見事に守りました。しかし、2011年(平成23年)の東北とうほく地方ちほう太平洋たいへいようおき地震じしん東日本ひがしにほん大震災だいしんさい)の津波つなみは、この防潮堤ぼうちょうていを乗りこえてきました。

写真 東日本大震災前の岩手県宮古市田老地区の防潮堤

日本海側でも津波つなみは発生します。昭和58年(1983年)の日本海にほんかい中部ちゅうぶ地震じしんにより大きな津波つなみが発生し、秋田県八竜町はちりゅうまち(現在の三種町みたねまち八竜はちりゅう地区)で6.6mの津波つなみを観測しました。震源しんげんが陸に近かったため、地震じしんから7分後に津波つなみせ、海岸からげおくれた人が犠牲ぎせいとなりました。

平成5年 (1993年) に発生した北海道ほっかいどう南西なんせいおき地震じしんのときには、北海道の日本海側に津波つなみが発生し、奥尻おくしりとうを高さ約30mの津波つなみがおそいました。 奥尻おくしりとうでは、その10年前の日本海にほんかい中部ちゅうぶ地震じしんでも津波つなみ被害ひがいにあっていたので、そのときの経験からいち早く高台に避難ひなんしようとしたのですが、震源しんげんが島に近かったため、避難ひなんする時間が十分にありませんでした。

表 明治時代以降の津波により大きな被害をもたらした地震

¶豆知識 − 津波つなみの高さの種類

ふつう「津波つなみの高さ」とは、ふだんの海面の高さから津波つなみによって海面が上昇じょうしょうしたその高さの差を言います。このほか、津波つなみの高さをあらわす言い方として、「浸水しんすいこう」または「痕跡こんせきこう」、「浸水しんすいふか」、「遡上そじょうこう」があります。それぞれ測る高さがちがうので、どの高さのことを言っているのか注意しましょう。

● 「浸水しんすいこう」または「痕跡こんせきこう」=陸上での津波つなみの高さ(ふだんの海面の高さから測る)。

● 「浸水しんすいふか」=陸上での津波つなみの深さ(地面の高さから測る)。

● 「遡上そじょうこう」=津波つなみが陸上をかけ上がった最高地点の標高(ふだんの海面の高さから測る)。遡上そじょうこうは、気象庁きしょうちょうから発表される「予想される津波つなみの高さ」に対して、同じ程度ていどの高さから、高い場合には4倍程度ていどまでになることが知られています。

図 津波の高さの種類

地球の裏側うらがわからも津波つなみはやって来る

津波つなみは、日本付近の地震じしんだけで日本の海岸をおそうのではありません。日本とは地球の裏側うらがわにある南アメリカのチリで発生した地震じしんによる津波つなみが日本にやってくることがあります。

1960年(昭和35年)5月22日午後3時11分(日本時間では5月23日午前4時11分)、南アメリカのチリ沖で世界最大の地震じしん(マグニチュード9.5)が起きました。このとき発生した津波つなみは太平洋を四方に伝わり、地震じしん発生から15分後に約18mの津波つなみがチリの海岸をおそいました。約17時間後にはハワイに津波つなみ到着とうちゃくし、約22時間半後の5月24日未明に、最大6mの津波つなみが岩手県や宮城県の三陸海岸を中心におそい、142名が死亡しぼうしました。

図 1960(昭和35)年のチリ地震津波の伝わり

予想をはるかにこえた東北とうほく地方ちほう太平洋たいへいよう沖地震(東日本ひがしにほん大震災だいしんさい

2011年(平成23年)3月11日、宮城県の牡鹿おしか半島はんとうの東南東130km付近の三陸沖を震源しんげんとし、震源域しんげんいきが岩手県おきから茨城県いばらきけんおきにおよぶマグニチュード9.0の地震じしんが発生しました。地震じしんの大きさは、日本国内で観測かんそく史上しじょう最大さいだい、世界で見ても1900年以降いこうに発生した地震じしんでは4番目の大きさでした。

この地震じしんは、太平洋プレートと陸のプレートの境目で発生した地震じしんです。震源域しんげんいきは長さ約450km、(はば)約200kmにわたります。震源しんげんの真上の海底が水平方向に約24m移動し、垂直すいちょく方向に約3m隆起りゅうきしたことから、大きな津波つなみが発生しました。

記録されている津波つなみの高さは、福島県相馬市で9.3m、岩手県宮古市で8.5m、岩手県大船渡市で8.0mなどです。津波つなみ遡上そじょうこうについては、国内観測史上最大となる40.5mが岩手県宮古市重茂おもえ姉吉あねよし地区で見つかりました。

図 観測された津波の高さ

各地の津波の跡から推定した津波の高さ(浸水高・痕跡高)

沿岸えんがんの市町村では、震災しんさい前から「津波つなみハザードマップ」を作って、あらかじめ津波つなみ浸水しんすいする範囲はんいを予想していましたが、東北とうほく地方ちほう太平洋たいへいようおき地震じしん津波つなみは、その予想をはるかにこえました。これまで、津波つなみ被害ひがいといえばリアス式海岸のことばかりだと思っていましたが、仙台平野では海岸線から5kmも内陸へ津波つなみが入りました。宮城県石巻市いしのまきしでは津波つなみが川をさかのぼりました。このため、川沿いを中心に内陸まで海水につかりました。

図 津波ハザードマップで予想していた津波浸水域(青色)と実際の津波浸水域(ピンク色)

地震じしんに対する技術が発達している国 日本

数多くの地震じしんが発生する日本では、ほかの国に比べて地震じしんに対する技術がとても発達しています。例えば、地震じしんによって建物などがこわされた経験から、大きな地震じしんにもえられるような建築技術や土木技術の研究が発展はってんしました。こうした研究成果から、建物や橋などは大きな地震じしんにも()えられるように設計することが法律で定められています。

東北地方とうほくちほう太平洋沖地震たいへいようおきじしんがマグニチュード9.0という超巨大地震ちょうきょだいじしんだったにもかかわらず、地震じしんでこわれたビルや住宅が多くなかったことに対して、世界中のニュースが日本の技術をほめました。

また、情報技術の発展はってん地震じしんそなえることに役立っています。例えば、センサーにより地震じしんの前ぶれとなるような地下の異常いじょうな動きを感知したり、地震じしんの発生をいち早く感知して、ゆれ始まる前に地震じしんが来ることを知らせる「緊急きんきゅう地震じしん速報そくほう」もあります。緊急きんきゅう地震じしん速報そくほうはテレビの地上デジタル放送や携帯けいたい電話などに送ることで、多くの人たちに地震じしんが来ることを知らせることができるようになりました。

東北とうほく地方ちほう太平洋たいへいようおき地震じしんでは、走行中の東北新幹線が、最初のゆれの9秒前、最も大きいゆれが起きる1分10秒前に非常ブレーキをかけて減速げんそくを始めていたことが分かりました。

図内容