JICE 一般財団法人国土技術研究センター

国土を知る / 意外と知らない日本の国土

雨や雪の多い国土

日本には四季がありますが、春から夏に変わるときには梅雨(つゆ)()ります。また、夏から秋の変わり目には秋雨(あきさめ)()ります。台風もやってきます。冬には雪が()ります。

でも、雨や雪が()ることは当たり前のことだと思っていませんか。よくニュースで、「1時間に20ミリの強い雨が()りました」と聞きますが、どれくらいの雨でしょうか。そもそも日本では1年間にどれくらいの雨や雪が()るのでしょうか。世界ではどれくらいの雨や雪が()るのでしょうか。

世界と比べてみると、日本の雨や雪について、またちがった考え方ができるかもしれません。

降水量こうすいりょうとは

まず、「降水量(こうすいりょう)」とは何か、また、降水量(こうすいりょう)の単位であるミリ(mm)とは何かというところからお話しましょう。

降水量(こうすいりょう)とは、地表に()った雨や雪などの水の量をはかったものです。雨量計(うりょうけい)という機械ではかりますが、雪やあられなどは、水に()かしてはかります。10分間の降水量(こうすいりょう)、1時間の降水量(こうすいりょう)、1日の降水量(こうすいりょう)というように、時間あたりにして表現します。例えば1時間に1ミリの降水量(こうすいりょう)とは、雨量計(うりょうけい)の容器に1時間に深さ1ミリの水がたまるくらいの雨や雪が()ったということです。

雨や雪は、いま、みなさんがいる場所では多く()っていても、遠いところでは少なくしか()っていないかもしれません。しかし、下の図を見てください。雨量計(うりょうけい)の周りくらいのすごくせまい範囲(はんい)であれば、雨や雪はどこも()り方は同じです。雨や雪を受ける皿の断面積によってたまる水の体積はちがっても、単位面積あたりに()る雨や雪の量はどこも同じですから、たまる水の深さは同じになります。

図 降水量とは

1時間に20ミリの雨とはどれくらいの雨か

もしニュースを見ていて、キャスターが「1時間に20ミリの強い雨が()りました」と言ったら、それは、どんなにすごい雨の量なのかわかりますか?

降水量(こうすいりょう)とは、雨量計(うりょうけい)の容器にたまった水の深さをミリメートル(mm)の単位で表したものですが、1時間に20ミリ、つまり2cmの深さの水がたまったということです。たった2cmかもしれませんが、下の図を見てください。気象庁のホームページによると、1時間に20ミリというのは、かさをさしてもぬれるくらいのどしゃ()りです。こうした雨が1日中()り続いたら、本当にたいへんな大雨です。でも、1日(24時間)に20ミリだと、1時間あたり平均1ミリも()らないことになり、1日中弱い雨が()っていることになります。

表 降水量と雨の強さ

雨が強くなると、大雨注意報や大雨警報(けいほう)などが出ることがありますが、地域(ちいき)によって注意報や警報(けいほう)を出す雨の量がちがうそうです。大雨が()ると(くず)れやすい山や急傾斜(きゅうけいしゃ)の山が多いなど、地域(ちいき)の地形によって警戒(けいかい)しなければならない雨の量がちがうからです。

季節によってちがう日本の降水量(こうすいりょう)

下のグラフを見てください。東京とほかの主な都市の降水量(こうすいりょう)を比べたグラフです。北海道の札幌市(さっぽろし)、雪の多い都市の代表の石川県金沢市(かなざわし)盆地(ぼんち)にある都市の代表の長野県長野市、沖縄県(おきなわけん)那覇市(なはし)と比べてみました。どの都市も季節によって降水量(こうすいりょう)がちがうことがわかります。

東京や長野市、那覇市(なはし)では、春から夏に季節が変わる()()の時期、夏から秋に季節が変わる秋雨(あきさめ)や台風の時期に雨がよく()ことがわかります。東京で最も多く雨が多いのは10月で234.8ミリ、反対に最も少ないのは2月で56.5ミリです。東京では最大の月と最少の月の降水量(こうすいりょう)の差は、なんと4倍にもなります。

札幌市(さっぽろし)金沢市(かなざわし)では冬にたくさんの雪が()りますから、冬の降水量(こうすいりょう)がほかの都市に比べて多いです。春は1年間で降水量(こうすいりょう)が少ない季節です。東京の最も少ない降水量(こうすいりょう)は2月の56.5ミリに対して、金沢市では12月がもっとも降水量(こうすいりょう)が多く301.1ミリです。

図 東京と主な都市の降水量(1971年〜2000年の30年間の平均)

日本は世界平均の1.4倍の降水量(こうすいりょう)がある

下の地図は世界の観測地点の降水量(こうすいりょう)(1991〜2020年の30年間の平均)をあらわしています。青色が()地域(ちいき)(こう)水量(すいりょう)が多いところです。これを見ると、世界には雨が多い地域(ちいき)がいくつかありますが、日本もその1つであることがよくわかります。

図 世界の降水量(1991〜2020年の30年間の平均)

それでは、どれくらいの降水量(こうすいりょう)なのでしょうか。

下のグラフを見てください。国土(こくど)交通省(こうつうしょう)が世界の主な国の1年間の降水量(こうすいりょう)の平均を調べたものです。日本の1年間の降水量(こうすいりょう)は1,668ミリです。世界の平均は1,171ミリですから、日本の降水量(こうすいりょう)は世界平均の約1.4倍です。(日本と世界の主な国の降水量(こうすいりょう)のちがいを比べるグラフです。日本の降水量(こうすいりょう)が多いことをわかりやすくするために多い順にならべましたが、日本が世界第8位という意味ではありません。)

図 世界各国の降水量(1976〜2005年の30年間の平均)

日本が位置する東アジアは、世界でも降水量(こうすいりょう)の多い地域(ちいき)です。

下の左側のグラフは、東京と東アジアの主な都市(中国の首都北京(ぺきん)香港(ほんこん)韓国(かんこく)の首都ソウル、タイの首都バンコク)の降水量(こうすいりょう)を比べたものです。これを見ると、どの都市も1年間のうち、夏から秋にかけて多くの雨が()り、反対に冬は降水量(こうすいりょう)が少ないことがわかります。

下の右側のグラフは、東京とヨーロッパやアメリカの主な都市(スペインの首都マドリード、ロシアの首都モスクワ、アメリカのニューヨーク、ドイツの首都ベルリン)の降水量(こうすいりょう)を比べたものです。これを見ると、ヨーロッパやアメリカでは季節による降水量(こうすいりょう)の変化が小さいことがわかります。

図 東京と東アジアの主な都市の降水量(左)、東京とヨーロッパやアメリカの主な都市の降水量(右)(1971〜2000年の30年間の平均)

雨は多く()っても、限られた量の水しか使えない

雨や雪が多く()ると、洪水(こうずい)などの災害が起きますが、あまりに雨や雪が()らないと、水不足になってしまい、(わたし)たちの生活に(こま)ります。そこで、ダムをつくって川を流れる水の量を調節(ちょうせつ)して洪水(こうずい)を防ぐ一方で、水をたくわえたり、川から水を引きこんだりして、水道や農業、工業などに使っています。これを「(みず)資源(しげん)」と言います。

人口が多ければ、それだけ家庭で飲み水やトイレ、おふろ、せんたくなどに水を使いますし、会社やレストランなどでも水を使います。農業や工場でも水を使います。日本には約1億2600万人もの人口があります。日本は世界平均の1.4倍もの降水量(こうすいりょう)があるとはいえ、それだけの人々の毎日のくらしや農業、工業に(こま)らないだけの水があるのでしょうか。

まず、日本全体でどれだけの降水量(こうすいりょう)があるのか、「降水(こうすい)総量(そうりょう)」を求めます。(降水(こうすい)総量(そうりょう))=(降水量(こうすいりょう))×(国土面積)という式で求めます。日本の降水(こうすい)総量(そうりょう)は630立方km/年です。下の図の左側の水色グラフを見てください。国土の面積が広くて、雨や雪が多く()る国ほど降水(こうすい)総量(そうりょう)は大きいという結果がでてきます。アメリカ、オーストラリア、インドネシア、アメリカ、中国などです。

降水(こうすい)総量(そうりょう)をその国の人口で割ると、人口1人あたりの降水量(こうすいりょう)を求めることができます。下の図の右側の青色グラフを見てください。日本の人口1人あたりの降水量(こうすいりょう)は4,945立方mです。世界平均は20,768立方mですから、日本の人口1人あたりの降水量(こうすいりょう)は世界平均の約4分の1しかありません。

しかも、降った雨の全てを水道や農業、工業に使っているわけではありません。空気中に蒸発(じょうはつ)したり、そのまま海に流れ出ていく分があります。どれくらいの水を「(みず)資源(しげん)」として、水道や農業、工業などに使っているかというと、下の図の右側の青色グラフを見てください。日本の人口1人あたりの(みず)資源量(しげんりょう)は、3,372立方m/年です。世界平均は7,256立方m/年ですから、人口1人あたりの(みず)資源量(しげんりょう)は世界平均の約2分の1もありません。

図 世界の主な国の降水総量(左グラフ)と人口1人あたりの降水量・水資源量(右の青と赤グラフ)(1976〜2005年の30年間の平均)

日本は世界平均の2倍も雨や雪が()る国なのに、どうして世界平均よりも少ない量しか水を使えていないのでしょうか。せまい国土に人口が多いという理由のほかに、日本の国土は外国に比べて山地の割合(わりあい)が多く、地形が(けわ)しく、川の長さが短いです。また、雨が多く()るのは()()や台風の時期に集中しています。このため、()った雨が(みず)資源(しげん)として(わたし)たちの生活に使われないまま、すぐに川から海に流れ出てしまうのです。

日本の川やダムなどについて、くわしくはこのホームページの「短くて流れが急な日本の川」を見てください。

日本の都市は世界でも有数の降雪量(こうせつりょう)

次は雪のお話です。

日本は世界でも有数の雪国です。下の図は、日本の雪の()る主な都市(北海道札幌市(さっぽろし)、青森県青森市、石川県金沢市(かなざわし))と世界の主な都市の降水量(こうすいりょう)を比べたものです。左側のグラフは東アジアと北アメリカの都市、右側のグラフはヨーロッパの都市の降水量(こうすいりょう)です。どちらのグラフとも冬の降水量(こうすいりょう)を見てください。どの都市の冬の降水量(こうすいりょう)を見ても、日本の都市の方が多いです。

図 日本の雪が降る主な都市と東アジア・北アメリカの主な都市の降水量(左)、ヨーロッパの主な都市の降水量(右)(1971〜2000年の30年間の平均)

また、下のグラフは、日本と世界の雪の()る主な都市の降雪(こうせつ)(りょう)をあらわしたものです。

降雪(こうせつ)」とは、ある時間内に()った雪の量のことです。雨量計(うりょうけい)の容器にたまった雨水の深さで「降水量(こうすいりょう)」をあらわすのと同じように、雪の量は新しく積もる雪の深さをはかって、センチメートル(cm)の単位であらわします。

下のグラフでは1年間に()った雪の深さの合計ですが、北海道旭川市(あさひかわし)や青森県青森市では、1年間に合計600cmをこえる雪()ります。世界の都市の降雪量(こうせつりょう)と比べても、日本の都市の降雪量(こうせつりょう)は多いことがわかります。

図 日本と世界の主な都市の降雪量と世界の主な都市の降雪量

¶豆知識 − 降雪量(こうせつりょう)積雪量(せきせつりょう)のちがい

降雪(こうせつ)」とは雪が()ること、「積雪(せきせつ)」は雪が積もること。文字どおりのことですが、量となると、ちょっとちがいがあります。

降雪量(こうせつりょう)」とは、1時間や1日、1週間、1か月、1年間など、ある時間内にどれだけの雪が()ったのかを、雪の深さであらわしたものです。天気予報で「これから明日の朝までに50cmの雪が()るでしょう」と言った場合は、新しく50cmの雪が積もるくらいの量の雪が()るという意味です。

積雪量(せきせつりょう)」とは、ある時点での積もった雪の地面までの深さのことです。(あたた)かい日に雪が()けると積雪量(せきせつりょう)は減りますし、新しい雪が()り積もると、その雪の重さでやわらかい雪はしつぶされます。ですから、積雪量(せきせつりょう)では、()った雪の量を正しく表すことができません。単に、いまどれくらいの深さの雪が地面の上に積もっているかということです。「○○スキー場の積雪量は50cmです」と言った場合には、○○スキー場では、いま、地面まで深さ50cmの雪が積もって残っているという意味です。

高い山脈(さんみゃく)のおかげで雪の日が少ない東京や静岡

下のグラフは、1年間の雪が()った日数をまとめたものです。北海道や東北地方、日本海側の都市で雪が()る日数が多いことがわかります。このほかに、このグラフを見て気づくことはありませんか。東京や静岡で雪が()る日数が、広島や高松、福岡よりも少ないですね。東京よりも広島や高松、福岡の方が(あたた)かいというイメージがありますが、どうしてでしょうか。

図 都道府県庁所在地の1年間の雪日数(1971年〜2000年の30年間の平均)

日本海側で雪が多く、太平洋側で雪が少ないのは、日本列島の地形と日本海を流れる対馬(つしま)海流(かいりゅう)が大きく関係します。

日本にたくさんの雪を()らせるのは、天気図でいうと「西高(せいこう)東低(とうてい)」と()ばれる状態(じょうたい)になっている時です。日本列島の西側に高気圧(こうきあつ)、東側に低気圧(ていきあつ)があるとき、シベリアから日本に向かって、北西の方角から(かわ)いた冷たい季節風(きせつふう)がふいてきます。

この風が日本海をわたるとき、日本海は暖流(だんりゅう)対馬(つしま)海流(かいりゅう)が流れていますから、水温よりも気温の方が低くなり、日本海から熱と水分を吸収(きゅうしゅう)して雲ができ、湿(しめ)った季節風(きせつふう)になります。

この雲が日本にやってきて日本海側の地域(ちいき)に雪を()らせるのです。さらに湿(しめ)った季節風(きせつふう)は日本海側と太平洋側とに分ける高い山脈にぶつかります。風が山脈をこえるときにも、空気にふくまれていた水分が雪となって日本海側に()っていくということです。

風が山脈をこえて太平洋側までやってくるころには、水分がない(かわ)いた風になります。このため、太平洋側では、雲ができずに晴天となります。東京や静岡は、日本海側との間に標高2000mをこえる山脈が高くそびえていますし、日本海からの距離(きょり)が長いので、雪雲(ゆきぐも)がとどきにくいのです

しかし、場所によっては日本海側と太平洋側を分ける山脈や山地が低いところがあります。例えば、岐阜県(ぎふけん)滋賀県(しがけん)との県境に近い関ヶ原(せきがはら)という地域(ちいき)や、兵庫県の篠山(ささやま)盆地(ぼんち)や広島県の三次(みよし)盆地(ぼんち)などの中国山地の盆地(ぼんち)があるところでは、雪雲(ゆきぐも)が低い山を乗りこえて、名古屋や広島、高松など太平洋側や瀬戸内海(せとないかい)地域(ちいき)にまで雪を()らせることがあります。九州でも湿(しめ)った風をさえぎる高い山がないので、雪が()ることがあります。

図 日本海側で雪が多く、東京や静岡で少ない理由

国土の半分の地域(ちいき)、約1900万人が豪雪(ごうせつ)地帯(ちたい)に暮らしている

日本は雪の多い国のひとつでもあります。たくさんの雪が()り積もることによって、道路や鉄道などの交通が混乱したり、そのために産業の発展(はってん)がおくれるなど、地域(ちいき)の人々の生活に(こま)ることが多くあります。

日本の法律(ほうりつ)では、雪がたいへんに多いという理由で、産業が発展(はってん)しにくく、住民の生活にも(こま)ることがある地域(ちいき)を「豪雪(ごうせつ)地帯(ちたい)」と定めています。また、「豪雪(ごうせつ)地帯(ちたい)」よりもさらに人々のくらしが大変な地域(ちいき)は、「特別(とくべつ)豪雪(ごうせつ)地帯(ちたい)」に指定されます。

日本の国土の半分の地域(ちいき)、約1900万人の人々が住む地域(ちいき)が、法律(ほうりつ)によって「豪雪(ごうせつ)地帯(ちたい)」に指定されています。指定された地域(ちいき)では、地域(ちいき)発展(はってん)などのための計画が作られ、国から特別の支援(しえん)を受けることができます。

図 豪雪地帯・特別豪雪地帯に指定されている地域、表 豪雪地帯の人口と面積

図 豪雪地帯・特別豪雪地帯に指定されている地域、表 豪雪地帯の人口と面積

¶豆知識 − 雪が多い都市では生活を守るためにたくさんの人たちの努力が必要

北海道札幌市(さっぽろし)(人口約197万人(令和4年))や青森県青森市(人口約27万人(令和4年))などの大きな都市が、これだけ多くの雪が()るのに住んでいる人たちの生活が混乱(こんらん)しないのはなぜでしょうか。

市役所の人たちが道路を除雪(じょせつ)するだけではありません。バス会社や鉄道会社、運送会社の人たちは、雪が()ってもバスや電車、トラックを走らせるように努力します。電気やガス、水道が止まらないように、雪や寒さに強い設備(せつび)や技術を開発しています。建物も、雪国では雪の重さや寒さに()えられくらいに強く設計(せっけい)します。雪が少ない地域(ちいき)では必要としない設備(せつび)や技術でも、雪国では絶対に必要なものです。

このために雪が少ない地域(ちいき)よりもたくさんのお金がかかります。例えば、札幌(さっぽろ)市役所では雪のために毎年、140億円以上のお金(予算)を使っています。そのほとんどがピンク色でしめされている道路の除雪(じょせつ)()です。札幌市(さっぽろし)に住む人たちは、その分のお金を税金として(おさ)めているのです。雪が特別に多かった年には、冬のとちゅうで除雪(じょせつ)()を全て使い切ってしまうこともありました。そのときには、予備費(よびひ)という、何かあったときにために使わずにとっておいている特別の予算(お金)を使っています。

雪国に住む人たちは、役所や会社の人たちに(たよ)ってばかりではありません。自分の家の周りは自分で雪かきをしたり、町内会などで助け合って近所の除雪(じょせつ)などをしています。しかし、地方の都市では、(わか)い住民が減って、高齢者(こうれいしゃ)が多くなっているので、昔のように自分たちだけの手で雪に対応することがむずかしくなってきています。

図 札幌市の雪対策の予算額