JICE 一般財団法人国土技術研究センター

国土を知る / 意外と知らない日本の国土

短くて流れが急な日本の川

川は私たちの生活に大きく関係しています。飲み水や農業用水の水源(すいげん)となったり、魚や野鳥など、さまざまな生き物が生息(せいそく)しているところにもなっています。

しかし、川はそんな平和な姿(すがた)ばかりではありません。大雨が()るとたちまち水かさが増して、洪水(こうずい)被害(ひがい)(わたし)たちにおよぼすこともあります。

日本の国土と川について見てみましょう。

日本の川は長さが短く、流れが速い

日本列島は、標高(ひょうこう)1000〜3000mにもなる山脈が背骨(せぼね)のように走っていて、太平洋側と日本海側にわけているため、ヨーロッパやアメリカの川に比べると全体の長さがとても短く、同じ標高差を短い距離(きょり)で流れるため、速く流れます。

日本で1番長い川である信濃(しなの)(がわ)は、長野県では千曲(ちくま)(がわ)、新潟県では信濃(しなの)(がわ)()ばれていることは知っていますね。長野県川上村の標高(ひょうこう)2200m地点から水がわき出ていて、367kmの流れをへて日本海にそそぎます。

富山県を流れる(じょう)(がん)寺川(じがわ)は、源流(げんりゅう)から河口まで標高(ひょうこう)差が約3000mもあるのに対し、川の長さはわずか56kmという世界でも有数の急流な川です。明治時代、(じょう)(がん)寺川(じがわ)の工事のために派遣(はけん)されたオランダ人技師デ・レーケが、「これは川ではない。(たき)である。」と言ったと伝えられています。(たき)のように急流だという意味で言ったのが大げさに伝わったという説もありますが、いずれにしても、ゆっくり流れているヨーロッパの川と比べると、(じょう)(がん)寺川(じがわ)の流れはとても速いのでしょう。

図 外国と比べて急こう配の日本の河川

日本とフランスの川の地図を見比べてください。フランスの川は長いです。フランスで一番長い川、ロワール川は約1006km、日本で1番長い川である信濃(しなの)(がわ)は367km。ロワール川の水源地(すいげんち)は標高約1400mの山地ですが、平野に出るとゆるやかな流れとなります。川の流れる地域(ちいき)のことを「流域(りゅういき)」と言いますが、日本の川の流域(りゅういき)面積はフランスの川の流域(りゅういき)面積に比べてたいへんに小さいです。

ロワール川と合流する支流(しりゅう)を含めた流域(りゅういき)面積(めんせき)は約12万平方kmもあります。これはフランス国土の約20%を()め、日本でいうと本州の半分の面積とほぼ同じです。日本で一番広い流域(りゅういき)面積をもつのは利根川(とねがわ)ですが、その流域は関東平野です。

山が多く、いくつものも平野や盆地(ぼんち)にわかれている日本と、大平原の広がるフランスの地形のちがいが、川の長さや流れる速さ、流域面積のちがいなどによくあらわれています。

図 日本とフランスの主な川
【図 日本とフランスの主な川】

図 日本とフランスの地形
【図 日本とフランスの地形】

()った雨が一気に流れ出る日本の川

雨が()ると水が川に集まり、川は一気に水かさを増します。こうして増えた川の水量が洪水(こうずい)時にどれくらい流れるかというと、関東地方の利根川(とねがわ)では平常時(ふだんの川の水量)の100倍、中部地方の木曽川(きそがわ)では60倍、近畿(きんき)地方の淀川(よどがわ)では30倍にも増えます。

外国の川は、イギリスのテムズ川で8倍、ドイツなどを流れるドナウ川で4倍、アメリカのミシシッピ川で3倍となっています。

ヨーロッパやアメリカの川は、川の全長が長く、川のこう配がゆるやかなので、上流に()った雨はゆっくりと流れてきます。それに対して、日本の川は、全長が短く、川のこう配も急なので、上流に()った雨が一気に海まで流れ出るのです。

図 洪水時と平常時の河川を流れる水量の比較

写真 利根川の利根川橋付近(茨城県古河市・埼玉県栗橋町)のようす

住宅地よりも高い所を流れる日本の川

洪水(こうずい)のときの川の水面よりも低い土地のことを、専門用語(せんもんようご)で「洪水(こうずい)氾濫域(はんらんいき)」と言います。

国土交通省によると、洪水(こうずい)氾濫域(はんらんいき)の面積は日本の国土の10%を()めていて、ここに日本の全人口の51%、日本の持つ資産(しさん)(財産)の75%が集中しているのです。

川に沿()って高い堤防(ていぼう)が築かれていますが、台風や集中(しゅうちゅう)豪雨(ごうう)などによって堤防(ていぼう)が万がいち決壊(けっかい)すれば、地域(ちいき)の人々のくらしに大きな被害(ひがい)をもたらすことになりますし、東京や大阪などの大都市で起こると日本全体にも大きな被害(ひがい)をおよぼすかもしれません。

図 洪水氾濫域に集中する資産と人口
【図 洪水(こうずい)氾濫域(はんらんいき)に集中する資産と人口】

図 川の水面よりも低い東京と大阪の住宅地