JICE 一般財団法人国土技術研究センター

国土を知る / 意外と知らない日本の国土

海に囲まれている国、日本

日本は四方(しほう)八方(はっぽう)を海に囲まれた島国です。日本人は古代より船で外国と行き来したり、物を運んだり、魚や貝などをとって食べる、塩をつくるなど、海のめぐみを大きくうけてきました。7月の第3月曜日は「海の日」ですが、海に関する記念日を祝日(しゅくじつ)にしたのは世界でもめずらしいことです。私たちのくらしと海について、もっと考えてみましょう。日本の国土と海とのかかわりについて、発見があるかもしれませんよ。

世界の「海の憲法(けんぽう)」で海は5つに分けられている

ふつう、「国土」と言ったときには陸地をイメージしますね。私たちは、北海道、本州、四国、九州の4つの大きな島を中心とした陸地に住んでいます。この日本の陸地にいる限り、日本人も外国人も日本の法律(ほうりつ)を守らなければなりません。

日本の周りの海でも、漁業をしたり、海底にある資源(しげん)をとったり、船が航行しています。このため、海であっても、日本人も外国人も日本の法律(ほうりつ)を守らなければならない海域(かいいき)(海の範囲(はんい))、日本が支配することができる海域(かいいき)などがあります。

世界の「海の憲法(けんぽう)」とも()ばれる「国連(こくれん)海洋法(かいようほう)条約(じょうやく)」によると、世界の海は次のように大きく5つア)〜オ)の海域(かいいき)にわけることができます。

ア) 公海(こうかい)

  • 公海(こうかい)はどこの国のものでもありません。公海(こうかい)では、世界のどの国の船も航行することができ、世界のどの国の飛行機も公海(こうかい)の上空を飛ぶことができます。

イ) 領海(りょうかい)接続(せつぞく)海域(かいいき) (およ)び 国際航行(こくさいこうこう)に使用されている海峡(かいきょう)

  • 領海(りょうかい)は、領土(りょうど)と同じように日本の海です。基準(きじゅん)となる海岸線(基線(きせん))から海側へ12海里(かいり)(約22km)までです。外国船が日本の領海(りょうかい)を航行するときには、日本の法律(ほうりつ)を守らなければなりません。
  • 接続(せつぞく)海域(かいいき)は、基準(きじゅん)となる海岸線(基線(きせん))から海側へ24海里(かいり)(約44km)までです。密輸(みつゆ)不法入国(ふほうにゅうこく)などを防止するなどのために、日本の法律(ほうりつ)でいろいろな規制(きせい)を定めることができます。
  • 国際航行(こくさいこうこう)に使用されている海峡(かいきょう)は、日本では法律(ほうりつ)で、宗谷海峡(そうやかいきょう)津軽海峡(つがるかいきょう)対馬海峡(つしまかいきょう)東水道(ひがしすいどう)(およ)西水道(にしすいどう)大隅海峡(おおすみかいきょう)の5つあります。これらの海峡(かいきょう)では、領海(りょうかい)を3海里(かいり)(約5.5km)だけにして、海峡(かいきょう)の真ん中に外国船などが自由に航行できる公海(こうかい)をつくっています。

ウ) 排他的経済水域(はいたてきけいざいすいいき)

  • 排他的経済水域(はいたてきけいざいすいいき)とは、基準(きじゅん)となる海岸線(基線(きせん))から海側へ200海里(かいり)(約370km)までの海域(かいいき)とその海底、その地下です。「EEZ」とローマ字で省略して書くことがあります。排他的経済水域(はいたてきけいざいすいいき)がある国は、魚や鉱物(こうぶつ)、石油、天然ガスなどの海にある資源(しげん)を調査したり、資源(しげん)を採り過ぎないように管理することができます。外国船は自由に航行することはできますが、その国の許可なく、海底を調査したり、魚や鉱物(こうぶつ)などの資源(しげん)を採ることなどはできません。

エ) 大陸棚(たいりくだな)

  • 大陸棚(たいりくだな)とは、陸地から海へ続いている(かたむ)きが(ゆる)やかな(たな)のような地形をした海底をいいます。「国連海洋法条約(こくれんかいようほうじょうやく)」では、このような地形が200海里(約370km)を()えていなくとも、とにかく200海里までを、その国の大陸棚(たいりくだな)(みと)めて、資源(しげん)を調査したりすることができます。もし、大陸棚(たいりくだな)(みと)められる地形が200海里を()えて続いているときには、国連海洋法条約(こくれんかいようほうじょうやく)のルールのもとで、大陸棚(たいりくだな)範囲(はんい)延長(えんちょう)することができます。これを、延長大陸棚(えんちょうたいりくだな)といいます。大陸棚(たいりくだな)の地下には、石油や天然ガスなどの資源(しげん)()まっている可能性があるので、世界の多くの国が大陸棚(たいりくだな)延長(えんちょう)を目指しています。

オ) 深海底(しんかいてい)

  • 深海底(しんかいてい)とは、排他的経済水域(はいたてきけいざいすいいき)大陸棚(たいりくだな)の外側にある公海(こうかい)の海底です。深海底(しんかいてい)は、どこの国のものではなく、世界の人々の共同財産とされています。

なお、海里(かいり)とは、主に航海や航空で使う距離(きょり)の単位です。赤道の長さ(約4万km)から計算された単位で、1海里(かいり)=1852メートルです(40,000km÷360度÷60分=約1,852m)。

図 海域の範囲

日本の権利(けんり)がおよぶ海域(かいいき)の面積は世界第6位

日本の領海(りょうかい)(はい)他的(たてき)経済(けいざい)水域(すいいき)延長大陸棚(えんちょうたいりくだな)を含む面積は約465万平方kmあり、なんと世界第6位。その大きさは日本の国土の約12倍の広さなのです。

日本は小さな島国だと思っていませんでしたか。たしかに世界地図を見ると、ユーラシア大陸の(はし)にある島国で、小さい国に見えます。陸地の国土の面積は約38万平方kmで、世界第61位の大きさですが、日本列島の島々の海岸線から始まる日本の海域(かいいき)は世界有数の広さなのです。

表 海域の面積

図 日本の<ruby><rb>領海</rb><rp>(</rp><rt>りょうかい</rt><rp>)</rp></ruby>、排他的経済水域など

¶豆知識 − 津軽(つがる)海峡(かいきょう)などの国際(こくさい)海峡(かいきょう)では外国船が通るので領海(りょうかい)を小さくしている

下の地図を見てください。日本列島をわざと逆さまにすると、東アジアの国々から見た日本列島と太平洋という見方ができます。ロシア沿海州(えんかいしゅう)地方(ちほう)韓国(かんこく)、中国の重要な港から、東南アジアや北アメリカに向けて太平洋に出るためには、必ず日本付近の海峡(かいきょう)を通過しなければなりません。世界の「海の憲法(けんぽう)」とも()ばれる「国連(こくれん)海洋法(かいようほう)条約(じょうやく)」では、このように国際(こくさい)航行(こうこう)に使われている海峡(かいきょう)を「国際(こくさい)海峡(かいきょう)」と()んでいます。

領海法(りょうかいほう)」という日本の法律(ほうりつ)では、日本の領海(りょうかい)範囲(はんい)基準(きじゅん)となる海岸線から12海里(かいり)(約22km)までと決めています。これは、「国連(こくれん)海洋法(かいようほう)条約(じょうやく)」で認められている範囲(はんい)と同じです。しかし、津軽(つがる)海峡(かいきょう)では、もっともせまいところで(はば)が約19kmしかないので、日本が12海里(かいり)(約22km)の領海(りょうかい)をとってしまうと、津軽(つがる)海峡(かいきょう)領海(りょうかい)でふさがれてしまいます。そうなると、外国船などが津軽(つがる)海峡(かいきょう)を自由に航行するのに問題が起こるかもしれません。そこで、津軽(つがる)海峡(かいきょう)では領海(りょうかい)を3海里(かいり)(約5.5km)だけにして、海峡(かいきょう)の真ん中に外国船などが自由に航行できる公海(こうかい)をつくっています。

このように、日本の「領海法(りょうかいほう)」では、次の5つの国際(こくさい)海峡(かいきょう)領海(りょうかい)範囲(はんい)を小さくして、外国船などが海峡(かいきょう)を自由に航行できるようにしています。

  • 宗谷(そうや)海峡(かいきょう)……(から)(ふと)(サハリン)と北海道の間の、日本海とオホーツク海を結ぶ海峡(かいきょう)
  • 津軽(つがる)海峡(かいきょう)……本州と北海道の間の、日本海と太平洋を結ぶ海峡(かいきょう)
  • 対馬(つしま)海峡(かいきょう)東水道(ひがしすいどう)……対馬(つしま)海峡(かいきょう)のうち、本州と対馬(つしま)の間の、日本海と東シナ海を結ぶ海峡(かいきょう)
  • 対馬(つしま)海峡(かいきょう)西水道(にしすいどう)……対馬(つしま)海峡(かいきょう)のうち、韓国(かんこく)対馬(つしま)の間の、日本海と東シナ海を結ぶ海峡(かいきょう)
  • 大隅(おおすみ)海峡(かいきょう)……九州と種子島(たねがしま)()久島(くしま)の間の、太平洋と東シナ海を結ぶ海峡(かいきょう)

図 領海を小さくしている国際海峡(5つ)と東アジア地域の重要な港

国土の最南端(さいなんたん) 沖ノ鳥島(おきのとりしま)を守ること

せまいと思っていた日本ですが、国連(こくれん)海洋法(かいようほう)条約(じょうやく)にしたがって日本に権利(けんり)が与えられている海域(かいいき)までふくめると、実はとても広い範囲(はんい)となるのです。この広大な海域(かいいき)の中心となっている島の1つに、日本の最南端(さいなんたん)の島、沖ノ鳥島(おきのとりしま)があります。

沖ノ鳥島(おきのとりしま)は、周囲わずか11kmのサンゴ(しょう)の上に、満潮(まんちょう)()には高さ、(はば)とも数m程度の2つの小島が海面上に顔をだすだけの小さな島です。ところが、この2島があるおかげで、半径200海里(かいり)(約370km)、日本の国土面積よりも大きい約43万平方kmもの大きさの排他的(はいたてき)経済(けいざい)水域(すいいき)の円ができあがります。

排他的(はいたてき)経済(けいざい)水域(すいいき)は、魚などの水産(すいさん)資源(しげん)や石油やガス、鉱物(こうぶつ)などの資源(しげん)を日本の支配下におくことができる海域(かいいき)です。外国船が日本の許可なく勝手に漁をしたり、海底に資源(しげん)がないか調査したり、資源を採っていくことなどはできません。このように日本人の利益(りえき)にとって大変に重要な島なのです。

図 沖の鳥島と排他的経済水域

この島では、いま大変な問題が起こっています。実は、第二次世界大戦前の調査ではサンゴ(しょう)のなかに6島があったそうですが、自然の風化や波に浸食(しんしょく)されるなどして島が(くだ)けてなくなってしまい、現在では2島しか残っていないのです。もし、この2島の風化や浸食(しんしょく)がさらに進んだり、地球温暖化おんだんかによる海面上昇(じょうしょう)によって、満潮(まんちょう)()に海面下に(かく)れてしまうようなことになると、島とは認められなくなってしまいます。そうすると、日本は大きな排他的(はいたてき)経済(けいざい)水域(すいいき)を失ってしまいます。

そこで、日本政府は2島の周りに消波ブロックを置いたり、島の周りをコンクリートで固めるなどして、島を保護しています。写真を見てもわかるように、沖ノ鳥島(おきのとりしま)は、「島」と言うにはあまりに小さいので、外国のなかには、国際(こくさい)条約(じょうやく)で定めている「島」ではなく「岩」だという意見を言う国もあります。しかし、日本の国土の大きさを決める重要な島であり、沖ノ鳥島(おきのとりしま)をどうやって守っていくかきちんと考えていかなければならない重要な問題なのです。

写真 沖ノ鳥島の位置と2つの小島を消波ブロックやコンクリートで保護している様子

海にも外国との境界がある

外国との境界は、陸上の国境線だけではありません。海にも外国との境界線があります。日本も海で隣接(りんせつ)する国々と海の境界線をもっています。それはどういうことでしょうか。答えは、排他的(はいたてき)経済(けいざい)水域(すいいき)の境界線です。

もし、海をはさんだ2つの国との距離(きょり)が400海里(かいり)なかった場合にはどうなるでしょうか。下の左の図を見てください。それぞれの国が海岸線から200海里(かいり)ずつの範囲(はんい)をとると、重なる海域(かいいき)ができてしまいます。こうしたときは、2国が話し合って境界線を決めます。例えば、重なる範囲(はんい)に中間線を引いて、それを排他的(はいたてき)経済(けいざい)水域(すいいき)の境界線にしましょうと決めたりします。

しかし、重なる海域(かいいき)が、とても良い漁場であったり、海底地下に石油や天然(てんねん)ガス、鉱物(こうぶつ)などの資源(しげん)がある場合には、単純に中間線をとると、資源(しげん)を分け合うのに不平等になるかもしれないので、中間線が絶対に正しいわけではないということも国際的な常識(じょうしき)になっていて、境界線を決める話し合いの問題点になっています。

さて、日本では、日本海や東シナ海で、韓国(かんこく)や中国と400海里(かいり)も離れていない海域(かいいき)があります。日本の法律(ほうりつ)では、外国と話し合うときには日本は中間線を主張すると決めていますが、重なっている海域(かいいき)がとてもよい漁場であることや、東シナ海では天然(てんねん)ガスが地下にあるのではないかと言われています。日本も中国も韓国(かんこく)も、その海域(かいいき)で漁業をしたいので、難しい話し合いを続けています。

それに加えて、韓国(かんこく)は島根県の竹島を、中国は沖縄県(おきなわけん)尖閣(せんかく)諸島(しょとう)、ロシアも北海道の北方領土を自分の領土だと主張していています。下の右の図を見てください。それぞれの国が島を自分の領土(りょうど)だと主張して、その島から200海里の境界線を引くので、日本と韓国(かんこく)や中国、ロシアとは意見が全然ちがっています。

図 排他的経済水域をめぐる日本と外国との問題

日本の海岸線の長さは世界第6位

国土交通省の「海岸(かいがん)統計(とうけい)」によると、日本の海岸線の長さは約35,293kmです。地球の一周が約4万kmですから、地球一周の8割以上の長さということになります。

江戸時代、伊能(いのう)(ただ)(たか)は日本の海岸線を歩いて測量(そくりょう)を行い、日本地図を作り上げましたが、その完成までには16年かかりました。

それでは、世界と比べて見ましょう。アメリカ政府の調査によると、世界の海岸線の長さは35万6000kmです。そのなかで日本の海岸線は2万9751kmであり、これは世界第6位の長さです。世界地図では小さい国に見える日本ですが、とても複雑な形をした海岸線をもっていて、それが世界第6位の長さであるというのはおどろきですね。

海岸線の長さ

¶豆知識 − 複雑な地形だと、地図の縮尺がちがうと長さがちがってしまう

同じ日本の海岸線の長さなのに、日本の調査では35,293km、アメリカの調査結果では29,751kmと大変なちがいがありますね。なぜこんなにちがうのでしょうか。その理由は、日本の海岸線の形が複雑だからです。

下の2つの地図を見てください。左の縮尺の大きい地図では、海岸線の細かい地形まで書いてあります。右の縮尺の小さい地図では、海岸線の細かい地形は省略されて書かれています。拡大してくわしく調べるほど、海岸線の細かい地形も測ることができるので、その分だけ海岸線の長さが長くなってしまうのです。(これを、むずかしい数学用語では「フラクタル」といいます。)

したがって、日本の国土交通省の方がくわしく調べたということになりますが、外国と比べる時には、同じ方法で求めた長さで比べないと正しい比較(ひかく)になりません。そこで、アメリカの調査結果を使ったのです。

図 縮尺の大きい地図での海岸線(左)と縮尺の小さい地図での海岸線(右)

海岸線を守ることは国土を守ることにつながる

日本は長い海岸線をもち、日本人は古代より船で物を運んだり、魚や海をとって食べるなど、海のめぐみを大きく受けてきました。しかし、ときには津波つなみや台風による高波など、海から受ける災害のことも忘れてはなりません。

日本では、毎年平均して5個前後の台風が上陸(じょうりく)してきます。台風の低い気圧(きあつ)や強い風がふくために、ふだんよりも海面が上昇(じょうしょう)して、高い波が海岸に()()せることを「高潮(たかしお)」と言います。高潮(たかしお)によって波が堤防をこえて、陸地に海水がせたり、地震(じしん)のあとの津波つなみによって、海岸に面したまちが大きな被害(ひがい)を受けた経験がたくさんあります。

また、最近は、波の侵食(しんしょく)によって、年間160ヘクタールもの砂浜が失われているという調査結果もあります。

このままにしておくと貴重な国土が失われることになるので、海岸の保全は重要です。

写真 海岸

図 高潮や侵食、津波から守る必要のある日本の海岸