JICE 一般財団法人国土技術研究センター

受賞技術概要

建設分野の新技術への挑戦

    • 第10回国土技術開発賞

入賞(選考委員会委員長表彰)

水和物スラリを用いた蓄熱空調システム (第10回国土技術開発賞 入賞)

応募技術名称水和物スラリを用いた蓄熱空調システム
応募者名JFEエンジニアリング(株)
技術開発者〔JFEエンジニアリング(株)〕高雄信吾・杉山正行
〔JFE技研(株)〕生越英雅
共同開発者JFE技研(株)

技術の概要

1.技術開発の背景及び契機

 建築物の空調システムでは熱負荷が増大し、業務部門のエネルギー消費の増大、夏季の電力負荷ピーク増大の要因にもなっており、空調システムのCO2排出量の削減は喫緊の課題である。

 本技術では空調利用において蓄熱量を増大し、流動性のある潜熱蓄熱媒体として世界で初めて「水和物スラリ」(図1)が開発された。また、その製造装置の開発によって快適性を維持しつつ、土地の有効利用とCO2排出量の削減を実現する新しい蓄熱式空調システムが実現できた。

2.技術の内容

【水和物と水和物スラリ】

 テトラブチルアンモニウムブロマイド(TBAB)を溶解した水溶液を冷却すると、TBAB分子の周りに水分子が籠状に集まって包接水和化合物(「水和物」)が生成される。「水和物スラリ」は水和物の微細な結晶と水溶液の流動性のある混相流体である。水和物スラリは冷房に使われる温度域で融点と冷熱量の調整が可能な流動性のある蓄熱媒体である。

【水和物スラリ製造装置と蓄熱式空調システム】

 水和物スラリ製造装置を開発し、蓄熱式空調システムが実現した。(図2,3)この製造装置は水溶液の顕熱分を冷却する過冷却器、過冷却解除器を経て融点以下に冷却し冷熱量を増大する水和物スラリ冷却器で構成される。(図4)

3.技術の効果

 水和物スラリは、冷水と同じ容積で冷水の2・3倍の冷熱を持つため、同じ容積で冷水の2倍以上の蓄熱が実現できる。このことから、既存蓄熱槽の増熱利用、貯槽容積の半減によるコスト低減および土地の有効利用につながる。

【CO2排出量削減】

 高効率冷凍機の有効利用、増熱および夜間における冷凍機の効率的運用時間増大の相乗効果によるエネルギー利用効率の向上および夜間電力使用量の増大によりCO2削減が実現する。例えば、17000m2規模の既存ビル改修工事では空調の約30%のCO2排出量削減(ビル全体のエネルギー消費に対して約10%)を実現した。

【コスト】

 既存の冷水蓄熱空調システムを840RThから1650RThによって増熱するケースの試算例。

 従来の水蓄熱式空調システムに対して、追加設備等で約180百万円、貯槽等の削減設備で▲約152百万円(264m2の用地費減を除く)、一次エネルギー消費削減メリットが年間▲7百万円となり、約6-7年で回収できる。

4.技術の適用範囲等

 セントラル冷房を採用する新築および既存の一般建築ビルおよび工場等の建築物(凡そ10,000平米以上が対象)

5.技術の適用実績

川崎アゼリア株式会社において、高効率空調システム導入工事での実績がある。他に5件の実績(表1)

写真・図・表