JICE 一般財団法人国土技術研究センター

受賞技術概要

建設分野の新技術への挑戦

    • 第7回国土技術開発賞

入賞(選考委員会委員長表彰)

海底トンネル内部からの立坑構築工法 (第7回国土技術開発賞 入賞)

応募技術名称海底トンネル内部からの立坑構築工法
副題海上設備を用いない、推進機による上向き導坑先進・切下り工法
応募者名(北陸電力(株)
五洋建設(株)
前田建設工業(株)
技術開発者(北陸電力(株)  米谷富裕
五洋建設(株)   福與 智
前田建設工業(株) 藤山浩司
共同開発者(株)小松製作所

技術の概要

1.技術開発の背景及び契機

 志賀原子力発電所(写真-1)では、環境保全等の観点から、冷却用海水の取放水路を海底トンネル形式としている。さらに、放水方式についても、温排水の拡散範囲を抑制するため、沖合約500mの水深の深い個所に放水口を沈設し、高速で放水することにより、周辺の海水と効率よく混合希釈する水中放水方式を採用している。この沖合の放水口と海底トンネルとを繋ぐ放水立坑工事は、従来は、(1)海面上まで伸ばした仮設ケーソンを海底に設置、(2)仮設ケーソン内をドライアップ後、その内部から止水注入を実施、(3)下向きに海底トンネルまで掘削、という手順(図-2)で実施しており、1号機ではこの工法で施工した。しかし、2号機は、1号機の2倍以上の冷却水量となるので、温排水の拡散範囲を抑制するため、1号機より深い水深20mの海底に2箇所の放水口を設けることから、従来工法で施工すると仮設ケーソンや作業構台等のコストが大幅に増加する。また、日本海沿岸という立地条件を考慮すると荒天時や冬期の海上作業中断による工程遅延という問題もあった。

写真−1 志賀原子力発電所の全景

図−1 従来の海底立坑構築工法

図−2 新しい海底立坑の構築工法 

2.技術の内容

 当立坑構築工法は、海底面に沈設した放水口を設置面から浮き上がらせること無く、海底トンネル内部から上向きに止水注入を行い十分な止水効果を確保し、その海底岩盤を上向き推進工法を用いて導坑掘削した後、放水口直下から下向きに拡幅掘削を行うという、前例のない工法である。工法成立の最大の課題、放水口の浮き上がり防止と止水効果の確保の両立は、(1)21mと短い止水注入区間において3分割のステージ注入を行うことにより、放水口直下の注入圧力を必要最小限に抑制、(2)放水口と海底岩盤とを固定するグラウンドアンカーの設置、(3)アンカー軸力の監視により放水口挙動をリアルタイムで把握することにより克服した。また、海底岩盤での導坑掘削に対しては、異常出水に対応できる岩盤対応推進機を開発し用いた。

写真−2 岩盤対応推進器 写真−3 切り下がり掘削の状況

 

写真−4 立坑貫通状況 写真−5 覆工コンクリート打設完了

3.技術の効果

 放水口の浮き上がり防止の前記対策は、掘削時の湧水測定結果から所定の改良目標の達成を確認しており、止水効果の確保との両立に有効な手法であった。これにより、一連の構築作業をトンネル内で行うことが可能となり、当発電所2号機工事では、水深20mに沈設した放水口と海底トンネルとを繋ぐ立坑の構築で、従来工法で施工した場合に比較し、10%(5億円)のコスト縮減を達成した。また、気象海象に左右されない工法のため、安定した工期の確保が可能となった。

4.技術の適用範囲等

 当工法は、海底立坑のみならず地下と地上を結ぶ道路や地下鉄などの換気立坑や連絡立坑、地下発電所や地下実験施設などの連絡立坑、下水のマンホールなどの構築に適用できる。また、施工規模などに制限はなく、(1)用地制限により、地上設備を設けられない場合、(2)高架橋があるなど用地上空に制限がある場合、(3)景観上、工事設備を露出することに問題がある場合、という施工条件でメリットを発揮できる。

5.技術の適用実績

北陸電力(株) 志賀原子力発電所2号機 海域工事、平成11年1月〜平成15年12月 1件