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調査報告・研究成果 / 土木学会論文賞受賞論文

世帯の復旧資金の調達と流動性制約

土木学会論文賞受賞のお知らせ

 2008年5月30日、湧川勝己[財団法人国土技術研究センター首席研究員(情報・企画部次長)]が『世帯の復旧資金の調達と流動性制約』と題する研究論文にて、2007年度土木学会論文賞を受賞しました。

受賞理由

 自然災害時には、物的資産の喪失・損壊の被害を受けた多くの世帯が、資産を復旧するにあたり復旧資金を十分に調達できないという流動性制約に直面する。被災世帯が流動性制約に直面すれば、物的資産の被害を完全には回復できず、復旧過程が遅延する流動性被害が生じる。本論文では、平成16年10月に発生した円山川水害で被災した879世帯を対象として、資産の損壊等の被害実態、復旧に向けての資産調達方法や復旧過程の遅延実態に関して綿密なヒアリング、アンケート調査を実施することにより、被災世帯に復旧遅延による流動性被害が存在することを実証的に明らかにしている。さらに、被災世帯の属性や被害額、資産調達可能性を考慮して、流動性制約に直面した世帯が被った流動性被害額を計測するための流動性被害推計モデルを開発している。このような流動性被害の計測事例に関しては類似の研究が見当たらず、学術的な新規性が極めて高い内容となっている。また、防災事業都市の便益評価手法の開発に当たっては、被災家計が被った資産被害だけではなく、流動性制約により生じる復旧遅延被害も考慮に入れるべきであると指摘し、治水事業による流動性被害の軽減便益を計測するための実用的な方法論も提案しており、治水事業の便益評価の高度化に資する内容になっている。

 以上の理由により、本論文は学術面のみならず実務面でも土木工学分野の発展に大きく寄与しており、論文賞にふさわしいものと認められた。

研究論文の要約

 本研究では、平成16年10月に発生した豊岡市水害を対象として、被災世帯の復旧資金の調達状況と世帯の復旧過程に関する実態分析を実施する。その際、ショートサイド原則に基づくサンプル選択モデルを用いて、世帯が損壊した家屋・家財を復旧するために必要とする必要調達額と現実に支出できる調達可能額を推計するとともに、両者を比較することにより復旧資金の不足額を明らかにする。その結果、豊岡水害において、多くの被災世帯が、復旧に必要となる資金を金融機関から調達できないという流動性制約に直面していることが判明した。さらに、流動性制約に直面する世帯は、復旧過程が遅延し、長期間にわたり生活水準が低下するという流動性被害が発生していることが明らかとなった。

土木学会

http://www.jsce.or.jp/prize/prize_list/p2007.shtml#s04
[土木学会論文集D,Vol.63,No.3,pp.328-343,2007.8]

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