調査報告・研究成果 / 国際協力活動
第20回 日・韓建設技術セミナー開催報告
開催経緯
JICEは、日本と韓国の建設技術の交流及び発展を図り、さらには両国の友好と親善に寄与すべく、建設技術の調査研究・普及を通じて社会資本整備に貢献する共通の目的を持つ韓国建設技術研究院(以下、KICT)と建設技術交流を実施しており、この建設技術交流の一環として1990年から毎年継続して日・韓建設技術セミナーを開催しています。今回は20回目となるセミナーを日本で開催しました。
セミナーの概要
セミナーは、相互の理解をより深め議論を活発化させるために、共通の課題4テーマを設定し、全て同時通訳により討論形式で開催しました。前回のセミナーから、討論形式としたこともあり、内容の濃いセミナーとなりました。
本年度より、相互の理解をより深め議論を活発化させるために、共通の課題4テーマを設定し、すべて討論形式で行われました。今回のセミナーは、討論形式としたこともあり、内容の濃いセミナーとなりました。
第20回 日・韓建設技術セミナープログラム
<開会式>
開会の辞 | 大石 久和(JICE理事長) |
祝 辞 | 趙 柱(KICT 院長)大石 久和(JICE理事長) |
KICT発表者紹介 | 姜元義(KICT対外協力情報処長/尖端交通研究室長) |
JICE事業概要 | 佐藤 俊通(JICE情報・企画部長) |
KICT事業概要 | 姜元義(KICT対外協力情報処長/尖端交通研究室長) |

各発表の要旨
<パネル討論>
T. 共通課題発表・討論(技術・調達セッション) | ||
内 容 | ||
発表1 | 近年の調達施策に関する動向について | |
近年、我が国では多様な発注方式が採用されており、特に、平成6年の一般競争入札方式の導入以来の今日までの間、法改正・法制定および新たな発注方式の導入はめまぐるしい状況にある。そこで、新たに導入された発注方式の中から、平成9年より試行導入の始まった「設計・施工一括発注方式」、今年度より試行予定の「技術開発・工事一体型発注方式」についての発表を行った。また、民間技術力の活用方策として位置づけられる、これら二つの発注方式の導入背景、課題、今後の取組みなどについて、我が国における入札・契約制度を踏まえて発表を行った。 | ||
発表2 | 建設産業の先進化方案 | |
韓国では、建設投資規模や海外建設受注など、外形的に成長してきたが、低い生産性と脆弱な技術力量、公共事業の成果不良、不正・腐敗の蔓延など、多くの問題点を内包している。このような問題点を解消するために、民間の専門家中心の「建設産業先進化委員会」('08.5)が、広範囲の意見をまとめ、以下の先進化方案等を提案し、これらについての発表を行った。
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U.共通課題発表・討論(都市・住宅・地域セッション) | ||
内 容 | ||
発表1 | 高齢化の進展に対応した建築・都市環境の構築 −建築・都市のバリアフリー化に向けて− | |
日本では、5人に1人が65歳以上の高齢者という時代を迎えている。今後も高齢者人口は増加し、2050年には高齢化率が40%を超えることが予測されており、高齢者が主体的に自立した生活を送ることができ、豊かで活力ある社会を築いていけるようなまちづくりが必要不可欠である。日本では、1990年代以降、高齢社会に向けた本格的な法整備が進み、2006年にハートビル法と交通バリアフリー法の2つを統合・拡充したバリアフリー新法が成立した。 このバリアフリー新法に基づいて建築や都市の対策は着実に進められているが、まだ取り組むべき課題は多い。今回、日本の高齢化の進展に向けた建築・都市施設の整備の取り組みをはじめ、バリアフリー新法の枠組み等の紹介をするとともに、バリアフリーに関する法整備に先駆けJICEが取り組んできた調査研究等を紹介し、今後の課題の方向性について発表した。 |
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発表2 | 高齢社会に向けた建築・都市生活環境の構築方策 | |
韓国では、世界最低レベルの出産率と急速に進む高齢化のため、今後も発展し続けるかという不安が広がっている。お年寄りも老年期が長びくことにより、引退後の生活不安のため、さまざまな経済・社会活動に積極的に参加することを望んでいる。このため、お年寄りの暮らしの質を高めるためには、お年寄りの身体的・精神的限界を克服し、社会の構成員として日常生活と社会生活を営むことができるよう、早いうちに暮らしの環境を整備することが必要である。これを受け、今回、老人福祉施設の供給政策とバリアフリーの都市生活環境改善に向けた方策についての発表を行った。 |
V.共通課題発表・討論(道路セッション) | ||
内 容 | ||
発表1 | 日本の自転車交通の現状と改善への取り組み | |
日本では欧州の自転車先進国に匹敵する自転車利用大国である。しかし自転車利用者の大半は歩道上を低速で走行し、自らを歩行者に近いものと認知している。これらは交通法規に関する知識や遵守意識が低いことが課題となっている。近年の環境意識、健康意識の高まりの中で、ようやく本来の車両としての自転車利用が広がりつつあり、同時に自転車走行空間の整備などハードの取り組みも進められようとしているが、一方で様々な課題が明らかとなってきている。 今回、日本の自転車交通に関して、その利用及びインフラの観点より他国にない特徴的な現状について整理するほか、これに伴う課題を抽出し、対応策として現在実施されている様々な取り組みについての発表を行った。 |
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発表2 | 少子高齢化及び人口減少時代に対応した大規模住宅団地の再生 | |
韓国では1995年以来、2007年までに、自転車道9,170km(歩道上の自転車歩行者兼用道路89%)を整備した。しかし、同期間の間、自転車手段分担率は減少し、自転車交通の事故は急増する傾向にある。特に、都市部で自転車と自動車間の衝突事故が大多数を占めている。これは、市民の自転車需要に関連施設及び制度がサポートされていないためである。自転車の交通事故を減少させるためには、教育、法規制度と合わせて、施設投資の適用性を高めることが必要である。既存の千篇一律的な歩道上の自転車歩行者兼用道路から脱皮し、車道上に分離された自転車専用道路、自動車交通鎮静が適用される歩行者車両共存道路などにより、より安全な様々な自転車道路網の開発戦略を駆使する必要があり、これらについての発表を行った。 |
W.共通課題発表・討論(河川セッション) | ||
内 容 | ||
発表1 | 気候変化に伴う水害リスク評価と適応策に関する研究 | |
2008年6月に社会資本整備審議会により答申された「水災害分野における地球温暖化に伴う気候変化への適応策のあり方について」において提唱されている「犠牲者ゼロ」に向けた「施設による適応策」、「流域と一体となった適応策」、「危機管理対応を中心とした適応策」などの施策を治水計画に反映させるため、気候変化の影響による降水量の増加が社会や経済等に与える影響を水害リスクとして評価するとともに、国土構造や社会システムの脆弱性を明らかにするとともに、この脆弱性を十分に理解した上で、適切に適応策を選定し、組合わせるための手法及び適応策の効果的・効率的な実施手順に関する検討の現状と成果を発表した。 | ||
発表2 | 気候変化および変動に伴う韓国における水関連災害の危険性評価及び対応方策 | |
韓国では、気温が20世紀の間に1.5℃上昇し、最近20年間の降水量は7%増加したが、降水日数は14%減少し、80mm以上の豪雨発生頻度は増加する傾向を示している。このような激しい降雨特性の変化は、人の生活や生態系に変化をもたらし、特に、洪水頻度や規模に影響を及ぼすといえる。今回、気候変化が水関連災害に及ぼす影響を調べ、特に、朝鮮半島の水管理に及ぼす影響について予想した。最後に、このような将来の気候変化に対応するため、持続可能な水管理政策方策について述べた。 |
いずれの発表内容も日韓両国において今日的に重要な課題であり、各発表の後に活発な質疑応答が行われ、第20回セミナーを成功裏に終わらせることが出来ました。
セミナー開催にご尽力いただいた皆様に感謝申し上げます。
