JICE 一般財団法人国土技術研究センター

受賞技術概要

建設分野の新技術への挑戦

    • 第19回国土技術開発賞

入賞(選考委員会委員長表彰)

総合洪水解析システム(IFAS)(第19回国土技術開発賞 入賞)

応募技術名称総合洪水解析システム(IFAS)
副題世界の洪水解析モデルを簡単に構築・運用できるフリーソフト
応募者名(国研)土木研究所
技術開発者(国研)土木研究所 津田守正、宮本守、(独)水資源機構 鍋坂誠志

技術の概要

1.技術開発の背景及び契機

 途上国においては、急速な人口増加が進むなか、水害を迅速、効果的に減らすうえで、洪水予警報シス テムの整備が有効な手段と期待されている。一方で、適切な洪水予警報を行うために必要とされる、経年 的な雨量、河川流量等の水文データの蓄積や財源、洪水予警報システムを適切に更新・運用できる技術者 が不足しているという課題があった。

2.技術の内容

 総合洪水解析システム(IFAS)は、データ入力、流出モデル作成、流出計算、結果表示といった水文流出解析を簡便に実施するための機能と、操作性に優れたインターフェースを持つフリーのPCソフトウェアで構成され、従来よりも利便性と汎用性を高めたシステムである。地形データや土地利用データ等は、インターネット上から無償で入手できるデータを流出解析モデルへ簡単に適用することができるため、煩雑で高価なGISソフト等が必要ない。流出計算のための雨量データは、地上観測雨量、レーダー雨量の他、世界各地で利用可能な人工衛星観測雨量に対応している。さらに、融雪量や蒸発散量を計算する機能も保持しており、より幅広い条件に対応した洪水解析モデルを構築することが可能である。また、ソフトウェアはHP上で無償公開し、利便性の向上も図っている。

3.技術の適用範囲

  • 100km2 程度の小流域から、数十万km2 規模の大流域まで(インダス川上流域は約40 万km2)
  • 地上における雨量観測等が行われていない地域から、レーダー観測、地上雨量観測網が導入された地域まで
  • 湿潤なモンスーン地帯から、融雪の影響を受ける地帯、蒸発散量が大きい乾燥地帯まで、様々な気候区分

4.技術の効果

 世界各地で利用可能な人工衛星観測雨量を用いた洪水予警報が可能なため、地上での雨量観測が十分に 行われていない流域や国際河川においても、洪水予測が可能となった。人工衛星観測雨量の観測精度の不 足を補うため、JAXA が開発した補正手法と連動する機能も搭載し、解析結果の信頼性を高めている。また、 融雪や蒸発散量計算機能を組み合わせることで、様々な気候に適用できるように汎用性を高めた。この結 果、アジア各国で洪水予警報システムとして活用されているほか、河川管理に関する研修用ツールとして 活用され、すでに50 か国1,000 人以上が研修を受講している。パキスタンでは、導入されたIFAS を用 いた洪水予警報システムの適用範囲を拡大するにあたり、パキスタン国内技術者自らがモデル構築を進め るなど、これまでの研修活動の結果、さらなる現地適用が進みつつある。

5.技術の社会的意義及び発展性

 海外では大規模な国際河川も含めて、リアルタイムの雨量情報の入手が困難な流域が多く存在し、そう した地域でも洪水予警報システムが導入できる点で社会的意義が高い。すでにインダス川等で導入されて いる。平成27 年度には、アラブ地域技術者を対象とした、アラブ地域の涸れ川(ワジ)のフラッシュフラッ ド対策のための洪水予測技術向上のための研修に活用されるなど、南米やアフリカを含めて様々な地域へ の適用の拡大が期待されている。

6.技術の適用実績

パキスタンにおける洪水予警報・管理能力の戦略的強化、平成24 年1月〜平成26 年6月 他3件

写真・図・表