調査報告・研究成果 / 国際協力活動
第24回 日・韓建設技術セミナー開催報告
開催経緯
JICEは、日本と韓国の建設技術の交流及び発展を図り、さらには両国の友好と親善に寄与するため、建設技術の調査研究・普及を通じて社会資本整備に貢献するといった共通の目的を持つ韓国建設技術研究院(以下、KICT)と建設技術交流を実施しています。この建設技術交流の一環として1990年から毎年継続して日・韓建設技術セミナーを開催しており、今年で24回目の開催となります。
セミナーの概要
第24回 日・韓建設技術セミナーは、平成25年9月3日(火)にイイノホール4階のカンファレンスルームにて開催しました。KICTからは、禹孝燮院長を団長とする総勢10名が参加されました。
第24回 日・韓建設技術セミナープログラム
<開会式>
開会の辞 | 谷口 博昭(JICE理事長) |
祝 辞 | 禹 孝 燮(KICT院長) |
JICE事業概要 | 佐藤 俊通(JICE情報・企画部長) |
KICT事業概要 | 成 晶 坤(KICT対外協力室長) |
<特別講演>
「社会基盤の維持管理」
講演者:上総 周平 前国土交通省国土技術政策総合研究所所長
各発表の要旨
T.共通課題発表・討論(河川 セッション) | ||
内 容 | 発 表 者 | |
発表1 | DAD解析による最大クラスの降雨量の推定 | 柳澤 修 JICE河川政策グループ 首席研究員 |
東日本大震災における津波災害を踏まえ、最大クラスの洪水に対する治水対策の検討が求められるようになってきている。本研究は、最大クラスの洪水をもたらす降雨量を地域別に推定し、今後の治水対策や危機管理方策の方向性を検討することを目的として実施している。日本全国のアメダスデータを用いてクラスター分析を行い、降雨特性を踏まえた水文区に分割した。これに基づいて、過去の主な豪雨を対象として水文区毎に、レーダ雨量を用いて雨量 (Depth) 〜面積 (Area) 〜継続時間 (Duration)の関係を分析し、水文区毎のDAD特性を踏まえた最大雨量について検討を行った。また、超過洪水の浸水被害特性とその変化傾向を把握するために、計画規模から最大規模の降雨を対象に浸水被害特性の変化及びリスク分析を行った。 本発表では、DAD解析による最大クラスの降雨量の推定、気象学的検証による引き伸ばし手法の検討、リスク構造の分析を行った結果について報告された。 なお、手法は確立されたものではなく、試行として行ったものである。 |
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発表2 | 気候変動の影響を考慮した確率降雨量の推定 | 黄 ル 煥 KICT水資源研究室 首席研究員 |
気候変動の影響により、2010年9月にソウルの光化門、陽川、江西で、2011年7月には江南一円で浸水が発生した。近年に入り、設計基準を上回る降雨量と降雨強度の雨が降り、被害が相次いでいる。気候変動による降雨量の急増傾向を、河川や排水施設物の設計基準に反映することで、小型水工構造物の設計安全性を高める必要がある。 本研究の目的は、水工構造物の水文学的な設計基準に採用される確率降雨量について、全国レベルで再算定を行うと共に、確率降雨量図を作成することで、水工構造物の設計時の計画降雨量設定の適切性を高めることである。堤防、河川横断構造物などの河川施設物や、道路の暗渠、側溝、下水道などの小型構造物を設計する際には、これまで、韓国確率降雨量図(建設交通部、2000)が利用されてきた。しかし、近年、気候変動による集中豪雨が頻発し、集中豪雨と降雨強度を考慮する必要性が高まっている。 本発表では、韓国確率降雨量図を見直すと共に、降雨強度上昇による確率降雨量への影響について検討した結果について報告された。 |
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パネル討論 | <座長>横山 晴生 JICE河川政策グループ 総括 湧川 勝己 JICE河川政策グループ副総括 金 顯 峻 KICT水資源環境研究本部長 |
U.共通課題発表・討論(道路 セッション) | ||
内 容 | 発 表 者 | |
発表1 | 近年の生活道路の交通安全対策について | 竹本 由美 JICE道路政策グループ 上席主任研究員 |
日本における交通事故発生件数は2005年から減少傾向であるものの、生活道路における死傷事故率は減少しておらず、幹線道路との差が開いてきている。第9次交通安全基本計画において2015年までに24時間死者数を3,000人/年以下、死傷者数を70万人/年以下にするという目標を掲げている。これまで、生活道路の交通安全を目指して様々な施策が実施されてきたが、全国的な取り組みとして普及したとは言い難い状況である。昨年度通学路の緊急合同点検が全国的に実施されたことを機に、今後継続して交通安全対策が推進されるために地域における推進体制の構築やPDCA (Plan-Do-Check-Action) サイクルが回るためのプログラムの作成が必要である。また、効果的・効率的な対策を実施するために生活道路の関連施策と連携した対策の検討や全国的にプローブデータ等を生活道路の交通安全対策へ活用するシステム作成が必要となっている。 本発表では、日本の生活道路における交通事故の減少を図るためのこれまでの取り組み、近年の取り組み、今後の課題等について報告された。 |
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発表2 | 道路調査装置の道路安全事業分野への適用に関する研究 | 尹 コ 根 KICT道路交通研究室 首席研究員 |
交通事故の主な要因には「人」、「車両」、「道路環境」があり、このうち、道路環境が人と車両に大きな影響を及ぼす重要な要因である。 道路環境における危険要素を把握・改善するため、道路管理庁は、多様な道路安全事業を推進している。道路安全事業を進める上で何より欠かせないのは道路情報である。しかし、この道路情報のほとんどが図面の形で収集されるため、図面情報を常に利用することはできない。本研究では、車両に各種センサーを取り付けて道路情報を収集・分析し、道路管理者や道路安全点検を行う専門家に図面化情報を提供する装置を開発した。本発表では、装置の開発と道路安全事業分野への技術の適用方策について報告された。 | ||
パネル討論 | <座長>永田 健 JICE道路政策グループ総括 林 隆史 JICE道路政策グループ 首席研究員 成 晶 坤 KICT対外協力室長 |
V.共通課題発表・討論(都市・住宅・地域セッション) | ||
内 容 | 発 表 者 | |
発表1 | 災害時・緊急時に対応した避難経路等のバリアフリー化に関する研究 | 鈴木 圭一 JICE都市・住宅・地域政策グループ主任研究員 |
災害時・緊急時において、高齢者、障害者等は身体機能等の制約により、避難する際の困難が生じやすいとの指摘がある。本研究では、避難経路における高齢者、障害者等の困難を明らかにし、環境整備の課題と対応策を検討した。その結果、安全な避難のためには、平常時から利用している道路等のバリアフリー化経路が安全な避難経路として確保されていること、高所等に避難する経路上への手すりの設置等のバリアフリー化を実施することが災害時にも有効であることが考察された。 本発表では、特に発災直後の高齢者、障害者等の避難時の困難を明らかし、高齢者、障害者等の避難時の困難を低減するための環境整備についての考察を行った結果について報告された。 |
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発表2 | 建物火災時における災害弱者の避難安全性の確保策 | 黄 恩 鏡 KICT基盤施設研究本部 尖端交通研究室 首席研究員 |
危機対応能力の低い障害者や高齢者等の災害弱者は、建物内で火災が発生すると、相対的に人的被害を受けやすい。現に、災害弱者が主に利用する高齢者・子供用施設の火災動向について調べたところ、火災頻度数は低かったが、1件当り人的被害は大きかった。しかしながら、韓国における建物の避難に関する規定や危機対応体制は、健常者中心に構築されており、危機発生時の災害弱者の安全体系が非常に脆弱な状況である。 本発表においては、災害弱者のうち、障害者と高齢者が主に利用する障害者福祉施設と高齢者福祉施設について、火災事例と関連基準を分析すると共に、建物で火災が発生した際に、障害者及び高齢者の避難の安全性を高めるための制度改善方策について報告された。 |
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パネル討論 | <座長>及川 理 JICE都市・住宅・地域政策グループ総括 朝日向 猛 JICE都市・住宅・地域政策グループ上席主任研究員 劉 永 燦 KICT公共建築研究本部長 |
W.共通課題発表・討論(技術開発・マネジメントセッション) | ||
内 容 | 発 表 者 | |
発表1 | 建設分野の技術研究開発の方向性について | 福田 敬大 JICE技術・調達政策グループ 副総括 |
2011年3月11日に発生した東日本大震災により、東北地方太平洋岸を中心に甚大な被害を被った。この震災は日本のこれまでの政策・制度を見直す大きな転機となった。 震災後に策定された第4期科学技術基本計画、第3次社会資本整備重点計画、2012年12月に策定された第3期国土交通省技術基本計画においては、震災への対応や、震災の教訓を生かした技術研究開発が位置づけられた。 本発表では、これらの背景を踏まえ、今後の建設分野における技術研究開発の方向性について報告を行った。 |
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発表2 | 社会問題の解決を支える創造経済基盤の建設R&D推進方策 | 郭 起 碩 KICT創意戦略室長 |
世界経済危機以降、韓国においては経済の成長率が下落し、建設産業の規模も縮小している。このような中、韓国の新政権は、創造経済という新しい経済パラダイムに基づいて、様々な取り組みを展開している。韓国建設技術研究院は、創造経済というパラダイムを取り入れた建設R&D推進方策を策定することで、集合住宅の生活音・騒音問題や都心部の洪水などの社会問題に対応すると共に、国民の暮らしの質の向上にもつながる研究開発体制を構築した。 本発表においては、韓国の建設産業の環境変化と、2013年2月に発足した韓国の新政権(パク・クネ政権)の経済パラダイム「創造経済」についてまとめる。また、低迷している韓国の建設産業の発展と社会問題の解決を支えることで、国民の暮らしの質を高めることを目指して韓国建設技術研究院が進めている建設R&D方策について報告された。 |
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パネル討論 | <座長>高野 匡裕 JICE技術・調達政策グループ総括 田中 救人 JICE技術・調達政策グループ 首席研究員 鄭 文 景 KICT Geo-インフラ研究室先任研究委員 |
セミナー中はもとより、セミナー終了後もセッションごとの担当者との活発な意見交換が行われ、第24回セミナーを成功に終わらせることが出来ました。第24回セミナーの開催準備等にご尽力いただいた皆様に感謝申し上げます。