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技術資料・ソフトウェア / JICEの部屋(コラム)

社会資本整備での「サブリミナル」を考える

掲載日時:2011/07/26

サブリミナル〜無意識の中でどう感じているのか〜

 街中を歩いていて、ある場所では何となく爽やかさを感じたり、別の場所では逆に何となく居心地の悪さを感じることがあります。この何となく感じる快・不快の原因は何なのでしょうか。路上駐輪・立て看板の程度、むき出しの高架の裏面の見苦しさ、沿道ビルの意匠の不統一、歩道の凸凹・雨天時の水たまり、街中の騒音、埃や匂い、緑陰の豊かさなど、様々な要因が考えられます。開放感や軽快感をもたらす要因、逆に圧迫感や煩雑感をもたらす要因が必ず存在すると思います。
 でも私達は、これらの個々の要因をことさら意識しているでしょうか。潜在意識の中で「何となく」心地良いとか「何となく」重苦しいとか漫然と感じているのではないでしょうか。怪・不快の原因を意識して探すことは殆どありません。
 この「潜在意識の中でどう感じるか」が、個人の判断や行動に何らかの影響を与えていることは確かでしょう。そして、個人の意識が集約された地元合意とか世論といったレベルに至ると、無意識の中での印象も太い流れとなり、各方面に大きな影響を及ぼしているのではないでしょうか。そこで本稿では、この潜在意識の働きである「サブリミナル効果」について考えてみたいと思います。

サブリミナル効果とは

 サブリミナル効果とは、「意識下に刺激を与えることで表れる効果。テレビやラジオなどに、知覚できない程度の速さや音量の広告を繰り返し挿入し、視聴者の購買意欲を増すものなど。」(岩波書店:広辞苑第5版)です。広告分野が草分けで、アメリカの映画館で上映中に知覚できないほど一瞬「ポップコーンを食べよう」という画面を挿入すると、ポップコーンの売り上げが大幅アップしたという例が有名です。広告ポスターで背景模様の中に刺激的な画像を紛れ込ませたり、オカルト映画で悪魔の顔を一瞬挿入するなども知られています。音声でも、スーパーマーケットのBGMに、「万引きは犯罪です」といったメッセージを紛れ込ませた万引き防止用BGM、禁煙やダイエット用のBGMもあるなど、今や「サブリミナル社会」だと評する人もいます。
 実際の効果については、学術的にはまだ議論の途上のようです。効果なしと言い切る研究者もいる一方で、宇宙飛行士や運動選手のメンタル強化、医療分野での導入例もあるようです。日本の放送界では自主規制されています。効果の真偽よりも、本人に気付かれずに潜在意識に働きかけるという手法の立ち位置が倫理に触れる、ということのようです。
 本稿では、このような潜在意識に積極的に働きかけるサブリミナル効果は対象としません。そういう考え方も存在するという単なる参考です。ここでは、冒頭の例で述べたように、「意識するともなく何となく(サブリミナルに)感じる」こと、即ち「無意識の中で本能的に状況を知覚すること」はあるのではないか、それが人の判断や行動に結果的に様々な影響を及ぼしているのではないか、社会資本の整備や管理を考える際にも、そうした影響をも認識する必要があるのではないか、ということが着眼点です。

社会資本整備におけるサブリミナル

 前置きが長くなりました。本題である社会資本整備でのサブリミナルについて考えたいと思います。上述のように、潜在意識に積極的に働きかけるようなグレーなことでは一切ありません。計画の中身はもとより、私達の地元説明での「立ち居振る舞い」に至るまで、受け手の方々の潜在意識レベルまで含めて、どのような印象で受け止められそうなのか、そこに思いを寄せる、ということなのです。いつくかの例で見ていきたいと思います。

地元説明(プレゼンテーション、コミュニケーション)

 20年以上前のことですが、ある事業の環境影響に関する地元説明会でオートスライドが使われたことがあります。録音テープからのナレーションとスライド映像とが同期するもので、当時は最新鋭でした。テープ(プロの女性ナレーター)による説明は聞き取り易く、各地区での説明の一貫性・公平性も保たれる、という配慮のようでした。しかし結果は惨憺たるものでした。

(ナレーション)「以上より大気に与える影響は軽微であると考えています。」
(ナレーション)「以上より騒音に与える影響は軽微であると考えています。」

 テープから流れる無機質なナレーションに、会場の不満・怒りは増幅の一途でした。信頼関係を築くには、たとえ朴訥(ぼくとつ)であっても、担当技術者みずからが額に汗しながら真摯に語ること、の大切さを痛感したものです。最近はパソコンを駆使したプレゼンテーション手法が充実し、各個人のスキルも大変向上しています。しかし、最後は理屈を超えた世界が待っています。たとえ説明の言葉が同じでも、顔の表情や目線(受け手側とアイコンタクトをちゃんとしているか)、声の抑揚、全体の物腰などにより、受け手の印象は大きく異なります。私達の言動が、全体の印象として先方にどう受け止められるか、無意識の中で信頼を感じてもらえるようになり得ているか、そこまで思いを寄せることが大切だと思います。

広報ツール

 パンフレット・記者発表資料などでも同じだと思います。一見して「明るくて爽快、ゆったりしている」という印象を受けるのか、「細かくて雑然、暗い、重い、窮屈」となるのか。単なる情報過多で雑然となるのは論外として、凝りすぎて構成や配色が複雑になるのもサブリミナルからは逆効果です。第一印象が「すっきりしていて心地よい」でないと中身まで見てもらえません。一瞬で心地よく感じてもらうにはどうしたら良いか、そして眺めてもらえるわずかな時間(約1分間)に心に残って欲しいコア・メッセージは何なのか、そこに着目した組み立てが肝心だと思います。

道路景観整備

 景観整備というと、中心部で地域の顔となるシンボル的な景観創出を連想します。でも、それ以外のところはどうでしょうか。威圧感のある擁壁、むき出しの高架裏、無骨な案内標識、つぎはぎだらけの舗装等々、サブリミナルに印象を悪くするものが散在しています。中心部で地域の顔となる空間を創出することはもちろん大切です。しかし、その他の地域を見苦しいまま放置していては、潜在意識での全体イメージは 「居心地が悪い」のままです。美しくなくてもよいので、威圧的擁壁などの見苦しいものを最初から作らない、あるいは見苦しいものはメンテナイスの際に修景していく配慮も非常に重要であり、より普遍的であると思います。全体の底上げに向けて無意識レベルでの阻害要因まで考える、そのこだわりが大切だと思います。  

こだわりを持つこと

 「無意識の中で様々なことを感じる」というのは、人間が本能的に持つ水面下の心理メカニズムであり、あらゆるジャンルに当てはまると思います。ですから、どんな局面においても相手の「無意識」の中での「印象」「受け止められ方」に思いを寄せる、常にこだわりを持ってそこを意識するかどうか。その積み重ねにより結果が大きく違ってくるのではないでしょうか。

( 佐藤 浩 )