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技術資料・ソフトウェア / JICEの部屋(コラム)

所有意識の変化と所有者責任

掲載日時:2016/10/11

国土政策研究所長 大石 久和

土地所有者の不明化

 東京財団が「土地の『所有者不明化』」という政策研究をこの3月に発表して話題になった。近年、土地所有者が誰かわからないという事態が増えてきており、それが災害復旧を困難にしているうえに、耕作放棄や空家の増大などという国土利用の根本である土地所有の空洞化とでも言うべき事例が数多く生ずるようになってきた。

 東京財団は全国すべての基礎自治体にアンケートを行い、固定資産税の観点から相続未登記が実務にどのような深刻な問題が生じているかを調べ888の自治体から回答を得た。

 それによると宮城・岩手の両県における東日本大震災の津波で被害を受けた宅地を自治体が買い取る事業では、相続人全員と連絡が取れないなどの理由で、いまも買い取りが進んでいない宅地が全体の17%(7592カ所)にも上っているという。

 個人の財産であると同時に公共的性格を持つ土地(国土)が放置され、土地が持つ公益的価値を十分に担保できる制度が整っていないと東京財団は指摘する。

 自治体は土地の所有者不明がどのような問題を起こしていると考えているのかというと、第一は「固定資産税の徴収が難しくなった」であり、以下「老朽化した空家の危険家屋化」「土地が放置され荒廃が進んだ」「災害復旧など公共事業の実施に支障をきたした」などが続いている。

 人口減少などにともなう地方圏の地価下落はすでに長年にわたり続いているが、土地を資産として考えないといった「土地に対する意識の変化」を生んでいる。そのため相続未登記が増え続けているのである。

 わが国では相続も登記も義務化されていない。「最も大きな資産である土地所有権を確実なものにするためには人々が相続や登記をしないはずがない」という前提で物事が組み立てられてきたとすると、もうそれを転換しなければならない時期が来たと言うことだ。

 おまけに、原野商法で荒れてしまった森林がその典型だが、土地のある自治体以外に暮らす所有者の問題がある。この場合、自治体内の所有者よりもさらに死亡把握が困難となり、課税そのものを放棄せざるを得なくなる事態が拡大する可能性が高い。

 最近の森林所有に見られるように「土地に対しては、利益となるより負担になる場合が多いので相続人を引き受けたがらない」などの土地資産への愛着がなくなるという事態が想定されていなかったのである。

地籍の未確定

 土地の所有者、地目、面積、隣地境界などが確定している状態を「地籍確定」というが、その確定率が全国平均で50%程度であり、東京や大阪など大都市ほど確定率が低いという問題は本欄でも何度か指摘してきた。

 何しろ、全国の地籍が確定していない先進国などわが国以外にはないのだ。憲法や安全保障問題にしても何にしても、この国は国家の仕組みの最も基本的な部分ほどいい加減なまま放置してきたと言わざるを得ないが、地籍未確定はその典型の一つだ。

 したがって、大きな土石流や津波などで、土地利用の形状が大幅に変わるようなことが起こると、境界画定が容易ならざることになる。境界が画定できないと、ある土地の所有者が確定できなくなり、用地取得ができず復旧や復興の事業が開始できない。だから地籍の確定は急ぐべき課題であるにもかかわらず、また東日本大震災でもこのために復旧や復興が相当に遅れた地域があるのに、急ぐべきという声がほとんど起こらない。

 国民・国土・主権は国家の三要素だが、その国土の管理がまるでできていないのだ。こんな国が先進国と言えるのかという気がしてならない。このことは国民一人ひとりの戸籍がはっきりしていないのと同じだという認識を政治も行政も欠いている。

揺らぐ国家の基本

 耕作放棄地や空家の増大、地方部に特徴的な土地の相続放棄など国家の基礎が崩れていくような危機感がある。何もかもが崩壊過程にあるわが国というのはあまりにも悲観的かも知れないが、実際現実は相当に厳しいと考える必要があるだろう。

 先進国で唯一エイズ患者が増え続けているうえに、少女の梅毒罹患が急増しているなど、耳を覆いたくなる現実がある。加えてここで論じてきた限界にきた土地所有制度の問題である。

 このコラムでも紹介したように、ドイツ基本法には所有者責任を問う規定があり、「財産権は、義務をともなう。その行使は、同時に公共の福祉に役立つべきものでなければならない。」(第14条第2項)とある。

 わが国にも「財産権の内容は、公共の福祉に適合するように、法律でこれを定める」(憲法第29条第2項)との規定はあるのだが、この憲法の規定にはドイツのように所有権そのものが制限下において成立している感じがない。特に土地に関しては、わが国では「絶対的・排他的所有権」が確立しているのが現実だ。

 しかし、見てきたようにこれでは国が保てないのである。土地については、森林が典型例だが「良好に管理して森林としての機能を保全できないようでは、所有権が制限されるか権利を喪失する」といった所有者責任を規定すべきだろう。

 家屋についても、「景観を損ね、火災や崩壊の危険や風紀の乱れを惹起する危険がある」所有者には所有権の「制限または剥奪」が規定される必要があるだろう。また、土地や家屋について「相続や登記の義務化」が罰則付きで早急に準備されなければならない。

 東京財団の政策研究は、「土地とはわれわれの暮らしの基盤であり、代替性のない唯一無二のものである。不作為による社会的コストの増大という負の連鎖を断ち切り、次の世代へ適切に引き継いでいくために、人口減少時代の土地法制の整備が急務だ」と結んでいる。(一部文章筆者修正)