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技術資料・ソフトウェア / JICEの部屋(コラム)

呪文の構造改革

掲載日時:2016/08/02

国土政策研究所長 大石 久和

特異な国・日本

 図は、このコラム以外でも本誌で紹介したことがあるが、1996年からの先進各国とわが国の一般政府公的固定資本形成費(公的固定資本形成費とは公共事業から用地保障費を差し引いたもので、公共事業の推移と同じ傾向を示す)の推移を示したものである。

 先進国のなかで日本だけが一本調子に公共事業費を下げ続け、第二次安倍政権直前の2012年には1996年比で0.47という水準にまで低下した。こうした政策をやり続けてきたことにまったく正当性はないと考えるが、その理由は次のように整理できる。

 @ わが国のインフラ整備水準が先進国を凌駕するどころか大きく劣後しているからである。たとえばドイツとの高速道路の比較でいえば、総延長こそ日本1万1500q、ドイツ1万2800qとほぼ同規模だが、日本は3分の1が2車線で十分な中央分離帯がなく正面衝突の危険があるため、ほぼ全線で70q/hの速度制限がかかっている。(日本の人ロ1億2700万人)

 一方、ドイツは3分の1が6車線もあり、アウトバーン全体が推奨速度130q/hとなっていて、実質無制限の高速で走行できる。(ドイツの人口8200万人)

 これでドイツと競争できる物流環境だと言えるだろうか。また、輸出大国とか貿易立国を標榜するわが国だが、肝心の港湾も就航中の世界最大級のコンテナ船が接岸できるバースは横浜にたった1つあるだけで、それも2015年5月に完成したところなのだ。

 治水、砂防、水資源、下水道、海岸、公園と何をとっても、先進諸外国の整備水準から見ると、かなり見劣りするものばかりである。「国民生活の安全と効率」を確保するためには、公共事業費を下げ続けることなど絶対不可の状況なのだ。

 A 公的固定資本形成費はGDPの構成要素であるから、これを下げると民間最終消費や民間投資などが増えない限り、GDPは必ず減少し税収が低下する。また、これは個人消費とともに内需の一つであるから、これが減少するとデフレからの脱却を困難にする。

 そのため1995年にグリーンスパンが「日本経済は本格的なデフレを経験している」と言った状況から今日まで脱却できず、いまだにデフレの淵に沈んだままである。

 こうして歳出削減に励みインフラ整備を怠ってきた一方、何をしてきたかというと「構造改革なくして景気回復なし、成長なし」と叫び続けてきたのだった。官から民へなどといった諸改革を実施してきたのだが、残念なことに結果は惨憺たるものだった。

 わが国は世界で唯一20年にもわたってまったく経済成長しない国となった。IMFによると、1995年には一人あたり名目GDPが4万2500ドルで世界第3位だった日本は、2015年には3万2500ドルと20年で0.76に減少し、世界ランクも26位に落ちてしまった。この間、アメリカは1.98倍に、イギリスは2.06倍にと増加しているにもかかわらずなのである。

 一人あたり名目GDPで見ると、ドルベースで減少してしまった先進国は日本だけであり、ギリシャもこの間1.38倍となっている。(ドルへのレート換算はIMFによる)

 現在でも構造改革が何より重要だと唱える評論家が多いが、「何をどのように改革することでデフレからの脱却が可能となり、それで日本経済がいかなるメカニズムで成長するのか」という根拠と道筋を明確に示されたことがほとんどない。根拠も道筋もなければ「構造改革」という言葉は、単なるバズワードか呪文でしかない。

独立した二つの財布

 「消費税増税が先送りされ、その税収が見込めなくなったので財政出動はできない」との認識を一部メディアが披露しているが、それは正しい認識ではない。いまわが国の財政は、税収入と特例公債を原資とする会計と、公共事業を行うための建設公債を原資とする会計から構成されている。

 1996年には57.6兆円の税収しかないのに32兆円もの社会保障費を計上しなければならない会計からは、公共事業費に回す余裕などまったくない。そのため将来の国民の財産を形成することになるとの理由で、公共事業には建設公債をもって充てることができるとの財政法の規定を利用して、現在では公共事業は建設公債のみを原資としている。

 そしてこの建設公債を原資とする会計からは、社会保障などに資金を回すことは法律が禁止しておりできないのである。つまり二つの会計間に資金の融通はないのだ。

 したがって、「もともと消費税分は公共事業には回っていなかった」のであるから、「消費増税が先送りされたから財政出動はできない」という認識は間違っているのだ。

 財政出動を考えるにあたっては、われわれはIMFなどの見解に耳を傾ける必要があるだろう。2014年9月のIMFサーベイには「公共インフラへの投資の増加は、残された数少ない成長促進のための政策手段である。(略)公共インフラへの投資の拡大は、短期的には需要の増大、長期的には経済の生産能力の向上により生産を向上させる」と記している。最近IMFはこのような考えを繰り返し表明している。

 2016年6月1日、長年建設を進めてきたミラノ〜チューリッヒ間の世界最長の延長57qもの鉄道トンネルであるゴッタルトベーストンネルが完成し、ドイツのメルケル首相、フランスのオランド大統領、イタリアのレンツィ首相などがスイスの閣僚らとともに一番列車に乗り込んだ。

 このように海外では経済成長と競争力強化のためのインフラ整備が計画的に、かつ着実に進んでいる。