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技術資料・ソフトウェア / JICEの部屋(コラム)

世界の動き・日本の発信

掲載日時:2016/03/04

国土政策研究所長 大石 久和

 

 『WILL』の2016年1月号に、「国際情勢の報道が極端に少なすぎる」と題した神戸大学大学院法学研究科教授の簑原俊洋氏の論文が掲載された。教授はパリで起こったテロ事件の惨劇の際、シンガポールに滞在していたという。

 そこでテレビに釘付けとなって見入っていたのだが、アメリカのCNNはことの重大さを悟っていたから新しい情報を刻々と報じていた。ところで日本ではどのように報じられているのかを見るためにチャンネルをNHKにすると、流れてくるのは数時間前の情報ばかりであったという。

 NHKワールドはどうなのかと期待したのだが、ここではなんと、前日の大相撲の再放送中だったというのだ。「大国」日本のメディアの無残な姿に愕然としたと感想を述べている。

 簑原教授は、「日本では世界の動きに追随した報道がなされていない」と嘆くとともに、「日本が世界に発信されていない」とも述べている。

 教授は海外に行く機会が多いようだが、アジア圏域以外でNHKワールドをホテルのチャンネルに入れているところはさほど多くないとの経験も語っている。筆者などは、超ドメといわれるほどにドメスティックな経験しかない者だが、それでも公務を含め何度かは海外に出かけている。その際、氏と同じような経験をしてガッカリしたことがある。

 パリのホテルにいたとき、NHKがホテルのテレビに登録されていたので見てみると、なんと「朝ドラ」をやっていた。この放送内容は、このホテルに泊まる日本人以外の人々に日本とは何か、日本では何が起こっているのかを知らせようという意図などなく、このホテル宿泊の日本人へのサービスだけを考えていることを意味している。

 日本人向けとしても、最近の日本の動きを知らせたりするのならともかく、何でわざわざ「朝ドラ」なのかと残念だったし、悲しい思いをしたのだった。

 また教授は、ホノルルのホテルのテレビガイドにNHKの番号を入力したら中国電視台CCTVに換わっていたとも紹介している。筆者もまったく同様の経験があり、かなり以前のことだがウィーンのホテルに宿泊したときに、以前にあったNHKのチャンネルが消された痕跡があり、新たにCCTVが加わっていた記憶がある。

 ところでまったく話が変わるが、世界の観光地には「三大ガッカリ」といわれるところがある。実際に行ってみると期待ほどではなかったというのである。日本はその逆だとの話を聞く。

 2000万人にもなろうかというほどの観光客が日本を訪問している。中国からの伸びが全体を上げているが、中国以外からも多数の訪問者がやって来るようになった。

 爆買いだけが目的であるはずもなく、各地の日本の風情にふれ、多くの日本人と会話して日本というものの理解を深めて帰っている。その多くの人々が、来日前に自国で聞いていた時より日本への好感度をあげて帰るというのである。

 日本の何もかもが褒められたものだとはとても考えられないが、日本と日本人にふれてみて印象がよくなってくれることはありがたいことだ。彼らはその感想を本国で話し、それを聞いた人が日本に訪れてくれることにもなるだろうし、それが広まることで、その国におけるわが国の評価・評判全体も変わっていくことになることも期待できる。

 わが国を訪問して印象が向上するということは、日本はもっともっと積極的に日本を発信しなければならないことを意味している。日本は「ガッカリ国」ではないからだ。

 グローバル時代が来たなどというのなら、アジアやアメリカだけではない世界の動きへの感性を高めなければならないし、わが国の自然、都市、交通、食や芸能などについての発信も積極的にならなければならない。

 グローバル時代というかけ声とこれらの動きが連動していないから、グローバルなる叫び声など空疎なだけだと感じられるのだ。要するに体がついて行っていないのだ。

 評論家の立花隆氏は『文藝春秋』の2016年2月号で、次のように述べている。

 「一般向けのイスラム国情報で情報量が多くておすすめなのは、ニューズウィーク(日本版)だろうと思う。一読して、日本の新聞雑誌と情報量において圧倒的な差がついていることがわかる。比較すると日本のメディアの情報劣化がここまできているかと驚く。」

 少ない情報量しかない人に深い思考を求めることはできない。レッテルをいくら貼り続けても思考は生まれない。それどころか思考停止に誘導する。「公共事業はバラマキだ」という論証のないレッテルは、多くの人々の思考を停止させ、その結果として政治家もこの言葉に拘束され、インフラの整備レベルは先進各国から大きく劣後してきた。

 結果として、この20年で公共事業を1/2以下に下げてきた日本と、2倍に増やしてきたアメリカとの間に、20年分の積分値として大きなストックの格差を生み、それが彼我の経済成長と国際競争力とに大きな乖離をもたらしているのである。

 オバマ大統領が繰り返しインフラ整備が経済にとって不可欠だと説くが、それはわが国ではほとんど報道されない。アメリカは陸上交通再生法(FAST)という名の交通整備五か年計画法を成立させ、昨年末の12月4日、オバマ大統領がサインした。厖大なハイウェイを持つアメリカが、今後5年間に3050億ドルを道路を中心に投資するための法律だ。

 5か年計画は10年ぶりとなるが、ここ何年にもわたり計画期間や投資規模について、すったもんだの議論を続けてきて、大統領選挙が近いという最も政治的に対立が先鋭化するこの時期に大規模なインフラ計画がまとまるのは、アメリカのインフラ認識の深さを示すものだ。

 わが国のメディアはこれをまったく紹介しないが、このことは、われわれが世界のなかに日本をおいて眺めることができていないことを示している。