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技術資料・ソフトウェア / JICEの部屋(コラム)

若手技術者の現場技術力を鍛える

掲載日時:2010/06/11

■はじめに

 今回、発注者に求められる技術力のうち「現場技術力」に視点をおいて、私が地方整備局の出先機関に在職していた頃の職場と若手技術者の育成など実態について、狭い範囲の一面的な捉え方となるかも知れないが、自省を含め個人的な思いを紹介したい。

 以前から、担当技術者全般の問題として「現場を理解していない」「現場条件が反映された設計書となっていない」など現場に関わる知識(現場技術力)の習得に関して、職場でも課題となっていた。何故、この様な状況となっているのか、それには職場の業務実態の変化が大きく影響していると考えている。

■若手技術者を取り巻く職場環境の変化

 地方整備局の職場は、定員の削減が進む中、環境アセスメントの計画段階アセス実施・精緻化や政策評価制度、業務プロセス・成果等の情報公開制度など新たな制度の導入や公共事業執行に関する法律である「品確法」の施行・入札契約制度の大改革などに付則する業務が新たに加わるなど、実施する業務は増え続けている。また、業務内容も高度化・多様化・複雑化しているなど、業務内容や業務量なども以前に比べ大きく様変わりしている。

 これらを限られた職員で対応するため、事務所業務に集中的に配置し、現場担当の出張所では、所長・係長・発注者支援業務の体制、監督官施工の現場でも監督官・発注者支援業務の体制となっている。

 このような状況から、以前のような「現場」を中心とした業務形態が取れなくなり、新規採用者は採用時から事務所の調査課、工務課に配属され、経験がないまま調査・設計業務や発注工事の積算業務を担当し、現場を経験するのは出張所の係長になる時がはじめてといった状況が一般的となっている。このため、若手技術者が現場に接する機会は極めて少なくなっており、実質な現場経験はほとんど無いといっても良い状況である。

 また、部下を指導・育成する立場である副所長・課長・係長等はこれらの対応や多様化する地元対応などに多くの時間を要し、担当者の育成を行う時間は中々取れないことも加わり、一層、担当技術者の現場に関する知識の習得が、し難い職場環境となっている。

 これらが「現場を理解していない」「現場条件を反映したものになっていない」などと云われる要因となっているものと思われる。

■現場技術力 ≒ 現場経験(経験知)

 以前の職場は、新規採用者は基本的に工事現場に配属され、諸先輩の指導を受けながら設計書から必要な機労材等の算出や工事前の段取りから仮設工、本体構築、養生など一連の作業手順や施工会社・地元等とのやり取りなどを見聞きしながら、どのようにして現場が動いているのかなどを実際に体験できた。また、上司からも「土木屋は現場が基本だ」などと、工事現場を見る機会も数多く与えられた。これらの経験を通じて現場技術力を習得することができ、その後の設計業務や積算業務を行う際の基本的ベースとなっていた。

 私も課長時代に担当者の現場経験を積ませるため、作成した設計書を持って監督官等のもとで現場を担当し、設計変更時には事務所に戻り変更設計書を作成させることや事務所の業務が比較的少ない年度当初に一定期間、工事を担当させる対応等を行っていたが、どうしても目先の事務所内部の業務を優先することになり、継続的に行うことが出来なかった。
 現場経験の重要性・必要性を十分認識していながら、対応出来なかったことは今でも後悔している。

 現場に関する専門知識・ノウハウなどの現場技術力は、机上の学習等で得られるものには限界があり、現場経験の積み重ねを通じてはじめて得られるものが多い。
 現場を知り、理解した上での調査設計・積算業務や受注者対応が、より良い「ものづくり」に繋がる。


■現場技術力を鍛える機会を

 現場技術力の育成にあたっては、これまでも、様々な取り組みや工夫がなされ行われているが、若手技術者に現場経験の機会を与えることについては、現状の組織体制、業務量等から、「判っているが、職場実態を考えると現場への配置は不可能であり、そんな余裕はないし現実的でない」と、あえて避けていたように感じている。

 今後も、このような状況が継続される場合、若手技術者だけの問題ではなく組織全体の現場技術力にも影響を与えることも懸念される。いま一度、土木技術者の原点に戻って、現場経験ができるような職場環境とするための思い切った、取り組みを行うことが必要な段階を向かえているのではないだろうか。

 例えば、以前行われていた担当技術者の現場配属も各職場単位で行うことは難しいが、組織全体のシステム化すれば決して不可能なことではないと考えている。
 研修制度においても、机上の研修だけでなく、測量、丁張の設置〜構造物の構築等の実践研修、建設会社の監理技術者クラスによる施工管理研修、一部自治体で取り組まれている若手技術者が現場代理人の補佐等を体験する現場研修や現場に直結するカリキュラムを積極的に取入れることも効果的であると思う。

 また、事務所、現場からの相談に対し登録されたエキスパートが助言等を行う「技術エキスパート制度」について、エキスパートの専門知識は、実務経験が基となっていることが多いことから、「構造は専門だが施工はちょっと」などと一連のものとなっていない、分野的に偏っているなど課題もあると聞いている。
 制度をより効果的に機能させるため、広い分野を経験させるといった従来の人事配置の他に、将来の専門分野のスペシャリストを育成する観点からの人事配置の検討も必要なことではないだろうか。

 もちろん現場経験だけで、現場に関する知識・ノウハウ等の現場技術力がすべて習得できるわけではないが、現場経験を通じて習得されるものも多く、また、現場技術力の育成には欠かせない重要な要素であることも事実である。

 現状の組織体制や業務実態を考えるとかなり難しいことではあるが、若手技術者の育成にあたっては、まずは、現場技術力を習得させるための現場経験、体験の機会を増やすことに重点においた取り組みが行われることを期待したい。

 

(渡邉 三男)