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技術資料・ソフトウェア / JICEの部屋(コラム)

日本神話の広域性と日本人

掲載日時:2014/10/03
 中国が経済成長を続けてきた結果、軍事費もこの20年で4倍になったといわれる。わが国は、この間まったく経済成長がないため防衛費は横ばいのままである。中国は2009年頃にはわが国のGDPを凌駕したようだが、その後も8%程度の成長を続けたから、今日ではすでに約1.5倍もの経済規模を持つ国となった。

 中国は軍事力と経済力の伸長を背景に、周辺諸国に対して横柄な大国主義的態度を取り始めている。これには、成長の鈍化に対する不満のはけ口とか、国内の著しい経済格差から生じる貧困層への目くらましなのだとの指摘もある。

 多くの日本人が日中友好を掲げて、経済発展前の中国に資金的にも技術的にも多くの援助を継続してきたし、中国国民もそれを喜んでくれていたのに、手のひらを返したようなこの態度は何だとの思いを抱いている。

 韓国についても、前大統領の任期末の竹島上陸以来、国内の政治事情から反日で固まらないと政局が運営できない状態に、日本国民のほとんどがうんざりしている。わが国には戦後の長い間の、誠意を尽くした支援は何だったのだろうかとの複雑な気分が満ちている。千年恨みを忘れないと言うのなら、何千年にもわたる数限りない中国からの侵略や、独立後の300万人(マッシュー・ホワイト氏の研究による)もの犠牲者を出した朝鮮戦争を大統領はどう総括しているのだろうかと誰もが不思議に感じている。

 この事態に対して、「日中・日韓間で問題が起これば、とにかく日本側が悪い」と言う戦後初期のGHQコードをそのまま持つ(日本の!)反日メディアはともかく、これも多くの日本人が、何がどうなったのかとの「狐につままれた」ような気分に陥っている。

 わが国では、デフレによる給与水準の低下や、経済が成長しないために伸びない税収と高齢化に伴う社会保障費の急増が財政の逼迫をもたらし、それがあらゆる分野の歳出削減を強要して、人々の挑戦心を萎えさせ自信を喪失させている。

 わが国も、アベノミクスを最後のチャンスとして経済成長軌道に復帰しなければならないが、同時に、わが国の存在を主張していくこともきわめて大切だ。西欧には、日本文化への理解が十分でなく、浮世絵などのごく一部の表面的な知識だけでわが国を捉え、「所詮は中華文明の一派でしかない日本が本家と争えるわけなどない」と考えられているようでは、わが国からの必死の発信も割り引かれてしまうからである。

 最近の日本人の自信のなさは、自国の歴史や文化についての理解を欠いており、自信と誇りを持って歴史を語ることができないことが大きいが、若者を中心に日本人は現代史も古代史も学べていない。土器の形がどうなのかなどが古代史ではないのだ。

 日本文明は、ハンチントンが独自の文明(=世界八大文明の1つ)だと言うように中国文明の亜流なのではない。日本文明は、広範囲にわたる各方面からの文明が渾然一体となって形成されている「吹きだまり文明」なのである。

 北方では、狩猟発達させた文明を持つ北ユーラシアの森林文明と接してその影響を受けている。北アジア・バイカル湖からカムチャッカ、アラスカに至る細石器文化は、北海道から関東に至る地域に痕跡を残している。西方では、朝鮮半島を経由して騎馬民族の乾燥地帯の文明の影響もある。西南方面では、中国中南部からインドシナに至るモンスーン地帯とつながりがあるし、南方では、点在する島々を経由してインドネシアやポリネシアからの文明も伝播してきている。

 さらに重要なことは、きわめて古い時代から各地の影響を受けてきた一方、石器の作り方、形、種類などに日本独自の個性が次々と生まれ育ち始めていたという事実である。まさに日本は、各種文明が集合して新たな個性を生んだ「るつぼ」なのである。

 その様子は、伝承してきた古事記などの神話に見ることができるのだが、この神話が語るわが国の「国の形」の根幹である「万世一系」は、古い世代からは敗戦で総括されたと見られ、若い世代からは歴史的事実でないものに興味はないと振り向かれない。

 しかし、以下の事実はどう見るのだろう。

 イザナギ・イザナミの国生みは柱の周りをめぐって行われたが、この儀礼は作物の豊饒祈願に由来する習俗であるといわれ、中国南部からインドネシアの農民にも分布している。

 ヨモツ国を訪ねたイザナギはイザナミの死から逃げ帰ってくるが、この時いろいろなものを投げ捨てながら逃走してくる。ものを投げ捨てながら逃げるという型の説話も世界に広く分布している。追跡者をはばむ障害物が必ず3つであるのも共通だというのである。多くは石と櫛と水らしいのだが、日本の櫛と黒髪と桃というのは、中国の華南方面と共通しているといわれる。

 天岩戸神話の太陽神が洞窟などに隠れ、これをおびき出すという主題の神話は、インドのアッサムからアメリカのカリフォルニアにも及んでいるそうだし、兄弟などの歳の小さい方にきわめて行いの悪いのがいて、日食や月食はそのためにおこるという神話は、インドシナのカンボジア、ラオス、タイ、ビルマなどに分布しているといわれる。

 これ以外にも、女神の死体から栽培植物が生まれたという五穀神話も、八岐大蛇神話も、因幡の白ウサギも、東南アジア、南アジアにも分布しているし、天孫降臨神話もわが国だけのものではない。(これらの記述は大林太良氏らの研究による)

 異種と異種とがふれあうところで、文化は生まれる。東洋と西洋が出会ったへレニズム文化は、最も世界的規模の異種交流による文化誕生の典型である。この文化は、芸術から科学にいたるまで多くの新たな爆発的変化をもたらしたのである。

 紹介した説話は神話であるが、広域に分布する物語であることは事実だ。この事実が日本とは何かを説明しているのに、神話だからと否定したのでは自分たちを理解できない。

 日本文明は、ハンチントンが言うようにディアスポラを持たない孤独な文明なのだが、世界的広がりを持つ交流のなかで育まれたことの証明がこれらの説話である。若い人たちはこれを日本人の矜恃とし、右顧左眄することなく泰然と生きて欲しいのである。