• JICEについて
  • 調査報告・研究成果
  • 助成・表彰・審査制度
  • 技術資料・ソフトウェア
  • 国土を知る

技術資料・ソフトウェア / JICEの部屋(コラム)

社会インフラの専門医と総合医

掲載日時:2014/12/25

専門医と総合医

 土木技術者のあり方が議論されて久しいが、医師という分野においても同様なようで、「専門医のあり方に関する検討会報告書」が平成25年4月22日に厚生労働省から出されている。そこには、いくつかの課題があげられている。

 例えば、「専門医制度を運用する学会が乱立して認定基準が統一されておらず、専門医として有すべき能力について医師と国民の間に捉え方のギャップがあるなど、現在の専門医制度は国民にとって分かりやすい仕組みになっていないと考えられる」といったことや、「医師の地域偏在・診療科偏在は近年の医療をめぐる重要な課題であり、専門医のあり方を検討する際にも、偏在の視点への配慮が欠かせない」などである。

 国民の認識とのギャップ、災害時の対応力の偏在への危機感等、課題としては似たところがあると感じる。国民のニーズは社会経済や生活環境の変化とともに移り変わっていくが、「○○のあり方」といったものはこれらにあわせて移行させつつ、さりとて、こうあるべしといった恒久的な哲学的な観点も織り交ぜて形作られるのであろう。

 経験と研究により進む知見と技術を用いて、様々な社会的ニーズに対処するために、それぞれの専門性をより進めることは重要であり、それによってより安全で安心な社会となり生活環境は改善されてきたのである。専門性への取り組みは医師に限らず社会インフラの分野でも、更には他の分野でも進められてきたことであろう。

 ところで、厚生労働省の検討会報告書を受けて、これまで18領域であった日本専門医制評価・認定機構が認定している領域に、新たに総合診療専門医という領域を加え19領域となる方向である。この検討会報告書には、総合的な診療能力を有する医師の必要性等について、

  1. 特定の臓器や疾患に限定することなく幅広い視野で患者を診る医師が必要である
  2. 複数の疾患等の問題を抱える患者にとっては、複数の従来の領域別専門医による診療よりも総合的な診療能力を有する医師による診療の方が適切な場合もある
  3. 地域では、慢性疾患や心理社会的な問題に継続的なケアを必要としている患者が多い
  4. 高齢化に伴い、特定の臓器や疾患を超えた多様な問題を抱える患者が今後も増える といった視点が挙げられている

 これらは社会インフラの分野でも同じようなことがいえるのではなかろうか。社会インフラは戦後の高度経済成長期に集中的に整備されており、それらは高齢化を迎えつつある。諸外国に比べて厳しい様々な外力にさらされる日本の社会インフラであるから、堅牢無比の言葉にふさわしく造られているが、四季折々の気候変化にさらされ、時に激しい風雨、大地震を受けとめるので、そこ彼処に補修が必要になってくる。

 メンテナンスはそれぞれの管理者が定期的な点検を踏まえしっかり行っているが、それでも目に見えない部分や手の届かない部分のメンテナンスは困難であり、高齢化とともに程度に差はあれゆっくりと老朽化が進行していく。

 人と社会インフラの大きく異なる点は、社会インフラは自らの体調不良を訴えてきてくれないことであろう。人を診療する際には、調子が悪い箇所がどの様に調子が悪いかを相談し、場合によって他の箇所が原因あることを特定していくことがある。

 社会インフラはどこが調子悪いか言ってくれないので、これまで専門的な者が専門とする箇所について点検し、必要に応じて補修や交換など行っている。目に見える不具合箇所は発見しやすく、その箇所だけの補修ならまだ容易であるが、目に見えている箇所が不具合の根本的な原因とは限らない。

 その不具合の根本的な原因を特定し取り除くか、その原因による影響を抑制するための処置を行う必要がある。そのためには専門的な技術力に加え、目に見える不具合だけではなく、様々な状況から施設の全体的な状態について判断できる総合的な技術力が求められる。

 私の担当する河川という分野における社会インフラとしては、堤防、樋門・樋管、ダム・堰、排水機場といった河川管理施設がある。平時においては、環境や利水について地域住民等の関心が高いが、やはり施設として一番期待されているのは、出水による被害を防ぐことであろう。個々の河川管理施設は、基本的に個々の現場に合うよう一品生産のため全く同じものは無いが、その基本的な構造は共通している。

 例えば堤防や樋門は、水系が異なっても基本的には構造は同じである。構造は基本的に同じだから、それぞれのメンテナンスのやり方も基本的には同じである。しかしながらそれらが集まって1つの河川としてみると、まったく異なる処方が必要となることもある。この辺りも人と同じであろう。

 流域毎に雨の降り方が異なり、流出特性も異なる。河川勾配、河床材料、河道の形状なども異なるので、出水時の川の様相、予想される水位の変化、流水のあたり方、深掘れしやすい箇所・堆積しやすい箇所、堤内側の内水による浸水状況、施設の運用のタイミング等が其々の河川で異なってくる。

 そのため、変化の程度を他よりも厳しい目で見ておくべき箇所があり、状況に応じて補修や改築や伐採などの対応(処方)が必要となる。特に注意すべきは、その対応により水の流れが変わり他の河川管理施設に影響が出ることがありうることである。河川の個性を把握し、それぞれにあった対応を行う必要がある。

近年求められる総合的技術力

 一例として疾患とその対応といった観点で記述したが、医療分野において日々の食事から運動・睡眠といった幅広く扱われているのと同様に、近年求められている総合的な土木分野の技術力とは日々のマネジメントも含まれていると考えられる。その総合的な技術力の必要性は、例えば資格制度においても見受けられる。

 土木技術者の資格にも様々あるが、医師の分野に総合診療専門医があるように、様々ある資格制度の一つである技術士制度には総合技術監理部門があり、平成12年に新設されている。

 総合技術監理部門は、技術業務の複雑化、高度化、大規模化等に伴い、当該技術業務自体はもちろん、外部環境への影響まで含めて、業務を的確に遂行するため、総合的に監理することの必要性が増大していることから新しく設けられた部門である。個々の業務をシステムの一部としてとらえ、多面的かつ並列的に俯瞰した一元的な把握と分析に基づき、採用技術やプロセスの改善により、安全性の向上と経済性の向上を両立させることを目指したものである。

 総合技術監理部門においては5つの管理技術がある。これらは、経済性管理、情報管理、人的資源管理、社会環境管理、そして安全管理に係る技術であり、いわばマネジメントといえる。総合技術監理部門の1部門だけを持っている技術士はおらず、必ず総合技術監理部門以外の部門を持っている。

 就職したばかりの頃、諸先輩方から「T(ティー)型」の技術者になるよう、更には「Π(パイ)型」の技術者になるようご指導いただいた。「くし型」というのもある様だが、いずれも縦棒が専門の深い知識と技術力を表し、横棒の部分が総合の広い知識と技術力を指している。これらはいくつかの深く掘り下げた技術知識と横断的な広い知識をバランスよく有する技術者であるべしということを表したものである。

 我々の先輩方は、調査から設計・施工・管理に至るまで自らの手で行っていたこともあり全体も見ていた。経済発展とともに様々な技術が生み出され、国民のニーズも多様化し、専門性が進んで行くにつれて、効率性の観点から専門分野はその専門分野の者にまかせる傾向になったと思われる。自分の専門を伸ばすのは日々の仕事との関連もあり大きな苦労はなさそうであるが、他分野の専門を理解して関連付けを行い分析し、総合的な判断を行うのはなかなか難しいものがある。

 しかしながら、個々の最適は必ずしも全体の最適にはならず、全体の状況を把握し総合的に判断することは必要である。今後の社会インフラを見据え、今求められている技術力であろう。

総合的な管理方法としてのアセットマネジメント

 河川においては、現在、目的に応じた様々な計画が策定されている。法定計画である河川整備基本方針と河川整備計画を筆頭に、河川維持管理計画、施設毎に策定する長寿命化計画、環境及び利用に関する河川環境管理計画、他にも地域との連携を主題とした各河川の個別の取り組みを取りまとめた計画もある。

 更に、これら計画を支える各種データベースとして、河川現況台帳、水利台帳、河川カルテ、水文水質データベース、河川水辺の国勢調査等がある。

 これら計画及びデータベースは、取り組みが始まったばかりのものもあり、内容の整合は図られているが全体として1つの体系となっているとは言い難い。例えば長寿命化計画を作成すると点検や補修の頻度などが分かり必要な予算も割り出されるが、これらを全体の資産管理の中に反映させなければ、限られた財源により効率的で適切な社会インフラの管理と運営という訳にはいかない。

 これには、アセットマネジメントの体系や考え方を取り入れることが一つの方法と考えられる。アセットマネジメント(Asset Management)とは、民間では不動産等における資産管理のことを意味するが、社会インフラにおいては、例えば国土交通省のホームページには「資産管理の方法。道路管理においては、橋梁、トンネル、舗装等を道路資産ととらえ、その損傷・劣化等を将来にわたり把握することにより、最も費用対効果の高い維持管理を行うための方法。」としている。

 また、厚生労働省が平成21年7月に取りまとめた「水道事業におけるアセットマネジメント(資産管理)に関する手引き」においては、「水道におけるアセットマネジメント(資産管理)とは、「水道ビジョンに掲げた持続可能な水道事業を実現するために、中長期的な視点に立ち、水道施設のライフサイクル全体にわたって効率的かつ効果的に水道施設を管理運営する体系化された実践活動」を指す。」としている。

 アセットマネジメントには、「ミクロマネジメント」と「マクロマネジメント」の2つの概念に分けることが出来る。「ミクロマネジメント」とは、河川においては個々の河川管理施設の日常的な管理と考えることが出来る。個々の施設の現在の状態を的確に把握することであり、その状況から将来の状況を予測して、いつ、どのような対策をすればよいか等、個々の河川管理施設毎に最適な管理計画の策定を目指すものである。河川巡視、点検、各種調査および長寿命化計画がこれに該当する。

 個別の最適解が全体の最適解になるとは限らないため、ミクロマネジメントだけでは十分ではなく、全体を俯瞰したマネジメントとしてマクロマネジメントが必要となる。「マクロマネジメント」は、連続する河川管理施設においては河川管理施設全体を対象とした資産管理といえ、全体としての最適な中・長期的維持管理を目指すものである。個々の施設の状態と将来予測から予防保全と事後保全の比較等も行い、各施設に要求する性能を確保し、維持管理費及び更新の全体の費用の減少と将来にわたる予算の平準化も図ることになる。

 この2つのマネジメントからなる流れの中に各計画とデータベースを位置付けることで、それぞれの計画の位置付けがなされ、1つの体系にすることができると考えられる。

おわりに

 ミクロマネジメントやマクロマネジメントを行うには、各施設の情報を収集・整理・蓄積し、分析すること無しには始まらない。アセットマネジメントの実施にあたっては、情報の整備が肝となる。しかしながら、現状までは把握していても将来予測のための情報整備となるとまだ十分とは言い難い。したがって事後対応となりかねない。

 これまで、社会インフラを扱う事務所の複数ある部署にあっても管理を行う部署はどうしても受け身になり易かった。河川管理施設のマネジメントを行うために、積極的に必要な施設情報を獲得する側になって、分析と総合的な施設運用を行う必要があろう。

( 三戸 雅文 )