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技術資料・ソフトウェア / JICEの部屋(コラム)

大地震に都市部の密集市街地は大丈夫か

掲載日時:2012/11/06

「都市部に著しく危険な密集市街地 全国に5,745ha 大地震で延焼の恐れ」


 先日、『「著しく危険な密集市街地」、全国に5,745ヘクタール 地震防災対策で国交省調査』(10月15日付け朝日新聞)や、『17都府県に危険な密集市街地 大地震で延焼の恐れ』(10月15日付け日経新聞)という見出しを目にされた方もいると思います。

 「著しく危険な密集市街地」とは、敷地や道路などが狭く、木造建物が高密度に立ちならんでいる地域を指します。大地震などの際に、多くの火災が同時多発的に発生した場合、消防活動も困難で、際限なく延焼する恐れがあり、建物の倒壊や火の手により避難する経路がふさがれて最低限の避難も困難になる恐れがある区域のことです。

 全国の分布を見ますと、東京23区に113地区、約1,683ha、大阪市に約1,333ha(地区数は1とカウント)、横浜市・川崎市に25地区、690ha、京都市に11地区、357ha、など、首都圏、中京、京阪神地域で全体の約94%を占めます。他方、北海道、東北、北陸、愛知以外の中部、中国、沖縄地方には一箇所もありません。このように典型的な大都市型の問題です。

日本全国が地震大国

 昨年3月11日に発生した東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)は、未曾有の被害を出し、被災地では、今なお復興への道のりは長いものがあります。一日も早い復興を祈念するものです。

 震源から数百キロ離れた首都圏でも、震度5強(東京都千代田区大手町)の揺れを観測し、鉄道、道路の不通により、約515万人という多くの帰宅困難者が生じたのは、首都圏の方の記憶に新しいところかと思います。500万人という数字は単純な比較はできませんが、フィンランド、ノルウェー、ニュージーランドの人口規模とほぼ同じ数になります。

 日本は地震大国です。日本の国土面積は、世界の地表面積の約0.25%ですが、マグニチュード6以上の地震は、世界の地震の約20%が起きているそうです。隣国韓国ソウルでは、震災対策の話は余りピンと来ません。それもそのはず、地震についての綿密な観測が始まったのがつい30年前で、割合大きな地震でもマグニチュード3程度であり、それが韓国全土で年数回という程度のようです。更に、ヨーロッパに行けば、フランスの中央部では地震の心配が無く、パリは有史以来地震の経験がないそうです。それに比べ、日本は、今回の被災地に限らず、大都市圏も含め、震災対策が宿命として与えられているといえます。

 首都圏では首都直下地震、中部圏・近畿圏でもそれぞれの直下地震、関東地方以西の広い範囲で、東海・東南海・南海地震の恐れが指摘されるなど、日本全国、どこでも地震の恐れがあることを忘れてはなりません。筆者は、阪神・淡路大震災の1ヶ月前に神戸を訪れたことがありますが、視察先で「関西は地震がないので、企業立地にもってこいです」とのPRを受けたのを鮮明に覚えています。しかし、現実にこの地域でも大震災が起こったように、現在、どの地域でも地震へのリスク管理を怠るわけにはいきません。


大都市圏の被害想定はどうなっているのか

 東京都は東日本大震災を受け、平成24年4月18日に、首都圏直下地震に対する被害想定を見直しました。それによると、震源の位置、規模、季節、発生時刻などにより、様々なケースが想定されますが、東京湾北部を震源としたM7.3の地震が冬の夕方18時の、風速15メートル/秒の時に発生した場合、建物全壊棟数・火災焼失棟数は約85万棟、死者は約11,000人と想定されています。都心西部地震の場合は、約13,000人に上るとされています。ちなみに、この中では、「津波については、河川敷等で一部浸水の恐れがあるが、死者などの大きな被害は生じない」とされています。一方で「区部木造住宅密集地域で、建物倒壊や焼失などによる大きな被害」とされています。

 また10月17日には、横浜市も地震被害想定を公表して、「木造住宅の密集地を正確に測定し直した結果」、最大のケースでは火災による死者は7年前の想定の18倍近い1,548人、焼失する建物は7万7700棟と予測されています。

 東日本大震災や最近の南海トラフ等に係る地震被害想定の発表もあり、大震災=津波という意識が高まっていると思われますが、それは大変重要な事項です。しかし、場所によっては、あわせて、建物倒壊や火災による被害の対策がそれ以上に求められていると言えそうです。

密集市街地の解消〜防災まちづくりの進め方

こうした密集市街地は、どうしたら解消できるのでしょうか。
 具体的には

建物が全部不燃化され(鉄筋造等が代表的ですが、木造でも地域により一定の耐火性を有する場合は可となります=地域ごとに都市計画等で規定があります)、仮に出火しても、隣の家との間に(4〜)6m程度以上の幅の広さの避難路にもなる道路があって、道路の向こう側へ延焼を少なくし、さらに、歩いていける範囲に、とりあえずの避難先になる公園があり、それでも延焼をしても、広幅員の幹線道路や大きな公園(避難先にもなる)で延焼を食い止めることができる、

といった市街地があれば、大きな被害は防げます。

 実際、阪神大震災では、293件の火災が発生し(兵庫県資料)、約70haが焼失しています。大正12年の関東大震災では、出火件数は阪神大震災の半分以下の約100件程度と言われていますが、延焼速度(火の手が広がる速度)は約10倍で、焼失面積は、阪神大震災の約50倍と言われています(消防研究所資料)。都市基盤が未整備な時代に発生した関東大震災では、風速が高いことも相まって、一度あがった火の手が、あっという間に大きく拡大した様子がわかります。

 これに対して、阪神大震災では、風速が低い状況下ではありましたが、4割が都市基盤施設で焼け止まったなど、建物の耐火性能の向上と併せて、幅が12m以上の道路や公園の存在が、延焼を大きくくいとめたと言われています。

 密集市街地の解消法のもっとも効果が高い方法は、広幅員道路を含む道路(通常幅員が6m以上)や公園と宅地(建物)をくまなく面的にまとめて整備する「土地区画整理事業」「市街地再開発事業」「防災街区整備事業」です。しかし、土地の面積が減ることがある(多い)こと、土地の位置が変わったり、土地でなくビル内の床に変わってしまうことに対し、地域全体の合意形成に時間がかかることなどから、すべての地域で実施されているわけではありません。むしろ、そうした手法が取れないところが、より多く積み残しになっている状況とも考えられます。

 別の方法としては、建物の建て替え(例えば30年程度に1回)の際に、不燃化された新しい建物の建築と、それに併せて、建物の前に空間を空け道路を少し広げ、狭い敷地を何個か統合して共同化し、集合住宅建設などを行うなど、少しずつ不燃化を進める方法もあります。しかし、こうした方法は、建物の建て替えにあわせて行われるため、一層時間がかかります。
 東京都の例では、これまでも 「防災都市づくり計画」を策定し、「燃えない」「壊れない」 震災に強い都市の実現を目指しています。 その柱は2つあります。

    幹線道路の整備による延焼防止空間(避難や救援活動などの緊急輸送路にもなる)の形成と、沿道建物の不燃化を進める「延焼遮断帯の形成」
    幹線道路で囲まれた街区内で、建物の不燃化を進め、道路、公園などの空地の整備を進める「不燃領域率の向上」

 「延焼遮断帯」の数値を見ますと、平成8年からの10年間で7ポイントあがっていますが、まだ62%(平成18年現在)しか完成していません。完成の目標年次は示されていませんが、整備をスピードアップし、単純に10年で10ポイントとしてもあと数十年を要することになります。

 このため、東京都では、計画達成のスピードアップを目指して、平成27年を目標年次とする整備プログラムを策定するなど、少しでも早い密集市街地の解消を目指しています。

 また、大阪市では、平成20年2月1日に「密集住宅市街地整備の戦略的推進に向けての提言」が出され、これを踏まえて各種施策積極的に進めています。また、京都市では、平成24年7月11日に「歴史都市京都における密集市街地対策等の取組方針」を定めています。京都市の都心では、防災上問題のある細街路(幅員4m未満)のうち、伝統的な京町家が建ち並ぶものが約5割を占めており、街並み景観の重要な要素として、また、濃やかなコミュニティの場として、歴史都市京都の魅力となっています。こうした町家の魅力を損なわないよう工夫をこらしつつ、密集市街地の防災性を高める対策を進めています。

道路整備により沿道建物不燃化を促進する方法も

こうした中で、東京都は、「木密地域不燃化10年プロジェクト〜特定整備路線候補区間」を取り組みを始めており、平成24年6月に第一次候補路線として23キロの区間を発表しました。

 これは、指定された区間の都市計画道路の整備に当たって生活再建等のための特別の支援を期間を限定して行い、密集市街地で災害時における「延焼遮断帯」の形成に大きな整備効果が見込まれる「都市計画道路」を集中的に整備するものです。

 東京都荒川区に「尾久の原公園」という8.8万人を収容する避難地になる公園があります。旭電化という工場の跡地を活用したものです。これにつながる都市計画道路補助306号線という幅員14mの道路が最近(平成20年)整備されました。

 密集市街地の真ん中を長さ約1.4kmにわたって整備しましたが、この道路の整備は「街並みに劇的な変化」を生みました(荒川区資料)。都市計画道路の整備の際には、用地買収をするのですが、道路際に建っていた建物も、一部が道路用地にかかるため、同じ機能の建物を再建するための補償金の対象になります。古い建物でも建て替える際には、耐震基準や防火の基準は、現代の新しいものが適用され、結果として、沿道の多くの建物が更新され、耐火性は大幅にアップします。この道路では、以前計画していた面的整備はあきらめ、道路だけを整備(建物への不燃化への補助は実施)しましたが、沿道の耐火率は14.6%から47.7%まで飛躍的に上昇しました。

    ( 出典: 荒川区都市整備部 )         ( 出典: JICE REPORT vol.20 

 このように、比較的単純な整備手法で、効果が上がるものとして、市街地の道路整備を進めることは、案外効果が高いそうです。

 いずれにしても、密集市街地対策は息の長い取り組みになります。「災害を正しく恐れる」つまり、適切な危機管理の考え方の元で、状況を正しく認識した上で、いつ起きるかわからない災害に対し、様々な手法を駆使して、防災・減災対策を急ぐ必要性があるのではないかと思います。

( 今岡 和也 )