JICE 一般財団法人国土技術研究センター

調査報告・研究成果 / 国際協力活動

第22回 日・韓建設技術セミナー開催報告

開催経緯

JICEは、日本と韓国の建設技術の交流及び発展を図り、さらには両国の友好と親善に寄与するため、建設技術の調査研究・普及を通じて社会資本整備に貢献するといった共通の目的を持つ、韓国建設技術研究院(以下、KICT)と建設技術交流を実施しております。日・韓建設技術セミナーは、この建設技術交流の一環として1990年から毎年継続して開催しており、今年で22回目の開催となります。

セミナーの概要

22回目となるセミナーは、去る平成23年8月30日(火)に東京ミッドタウン・ミッドタウンタワー4Fのカンファレンスルームにて開催されました。KICTからは、禹孝燮院長を団長とする総勢10名が参加されました。

第22回 日・韓建設技術セミナープログラム

<開会式>

開会の辞 大石 久和(JICE理事長)
祝  辞 禹 孝 燮(KICT院長)
KICT発表者紹介 白 縺iKICT対外協力情報処長)

<特別講演>
「地理空間情報の高度活用に向けて」
講演者:岡本 博 国土交通省国土地理院長

セミナー会場内

各発表の要旨

T.共通課題発表・討論(技術開発・マネジメント セッション)
  内    容 発 表 者
発表1 建設分野の技術研究開発の促進方策について 田中 救人 JICE技術・調達政策グループ 首席研究員
国土交通省では、現在「技術基本計画(計画期間:平成20〜24年度)」に基づき技術研究開発を行っているが、この計画終了時には、厳格な事後評価を実施し、次期計画に反映させる必要がある。その際には、社会経済環境変化も考慮した計画立案が不可欠である。また、今般の東日本大震災では、我が国は未曾有の被害を被った。震災以後、復興にむけて必要となる技術研究開発を行うことが必要である。
以上を踏まえ、建設分野の技術研究開発の促進方策について発表を行った。
発表2 建設交通関連R&D 成果の現場活用性を高めるための方策に関する研究 陳 慶 鎬 KICT建設システム革新研究本部
建設管理・経済研究室 首席研究員
建設交通関連のR&D予算が拡大すると共に、大規模な実用化課題を中心に展開されるR&D事業構造により、質の高い成果を確保することが強調されている。
本研究は、研究成果の現場活用の現況を調査するとともに、制度的・技術的な障害要因を分析することで、現場での活用性を極大化するための政策的な基盤、技術移転・拡散体制の改善、成果管理体系の高度化方策など、具体的な実行方策について考察したものであり、この成果についての発表を行った。
パネル討論 <座長>高野 匡裕 JICE技術・調達政策グループ 総括
田中 救人 JICE技術・調達政策グループ 首席研究員
姜 兌 Q KICT建設品質政策本部 建設コスト研究室長
陳 慶 鎬 KICT建設システム革新研究本部 建設管理・経済研究室 首席研究員
U.共通課題発表・討論(都市・住宅・地域 セッション)
  内    容 発 表 者
発表1 都市の脆弱性の把握とその対応方策のあり方に関する検討調査 朝日向 猛 JICE都市・住宅・地域政策グループ 上席主任研究員
大規模地震に伴う火災延焼から都市機能を保全し財産被害を防ぐためには、火災延焼を最小限にとどめるよう市街地を適切に区画することが重要である。我が国では、都市計画道路及び沿道建築物の不燃化を促進することによって市街地に延焼遮断帯を形成する都市防災総合推進事業(不燃化促進事業)を1980 年度から実施している。
本調査では、地方都市における事業実施上の課題を把握し、地方都市の特性を踏まえて、延焼遮断帯の性能等について再検討するとともに、特に対策すべき焼失危険性の高い市街地の整備のあり方についての検討を行い、この検討結果について発表を行った。
発表2 高層建築物外装材の垂直火災伝播(延焼)の防止に関する研究 劉 浩  KICT建設品質政策本部 火災安全研究室 首席研究員
韓国の建築法には、外壁の仕上材、耐火構造、カーテンウォール構造の耐火充填材については定められているが、高層建築物などの各建築物の外装材の垂直火災伝播と関連して火災安全性能を確保するための具体的な基準や試験方法などは設けられていない。そのため、30 階以上の建築物での火災の広がりを防止するためには、準不燃材料や不燃材料の外装材の使用を義務付けなければならないが、高層建築物の施工特性を考慮して、カーテンウォール内部に火災が垂直延焼するのを防止する火災延焼防止構造(Fire Blocking System)を設けた場合は難燃材料も採用できるようにするなど、基準の制度化を検討しなければならない。
本研究を通じて導入を目指す垂直火災延焼の性能評価基準・試験法は、これまでの小型試験を対象とする評価方法ではなく、火災延焼防止性能を実規模での評価方法より、有効な性能評価方法であることが判明したため、この内容についての発表を行った。
パネル討論 <座長>佐藤 哲也 JICE都市・住宅・地域政策グループ 総括
朝日向 猛 JICE都市・住宅・地域政策グループ 上席主任研究員
申 正 容 KICT建設品質政策本部長
劉 浩 KICT建設品質政策本部 火災安全研究室 首席研究員
V.共通課題発表・討論(道路セッション)
  内    容 発 表 者
発表1 ITS における日本の新たな取り組み状況 秋山 聡 JICE道路政策グループ 主任研究員
次世代ITSの展開として全国約1600箇所のITSスポット設置による全国サービスが開始されたことから、高速道路本線上やSA・PAおよび道の駅での活用などの「スマートウェイによるサービス活用の展開」や道路行政や官民物流運行管理などの「ITSプローブ情報の実用化」といった、今後進むべき方向等についての発表を行う。
また、2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震での、想定を越える大津波は、東北地方を中心に、電力喪失や通信回線損傷など、道路交通における情報収集・共有・提供システムへ大きなダメージを与え、道路管理や情報提供の基本をなす基盤が損傷し、地域の暮らしを支える道路交通が壊滅的被害を受けた。東日本大震災によるこれら道路交通情報への障害などの道路交通における被害状況、これに対応した災害に役立つITSなど今後の対応方策についての発表を行った。
発表2 スマートフォンアプリケーションを用いた交通情報提供クラウドソーシングとITS 文 炳 燮 KICT基盤施設研究本部
尖端交通研究室 首席研究員
利用者がスマートフォンのアプリケーションを使うだけで交通情報を収集・提供するクラウドソーシング(Crowdsourcing)手法がITSシステムへ導入されつつある。クラウドソーシングは、交通問題を解決するためにソーシャルネットワークサービス(SNS)を活用する方式であり、それぞれの運転者が本人の通行速度を公開することでお互いに情報を共有する相互協力に基づいたサービスである。クラウドソーシングは、利用者の多い都心には適しているが、都市以外の地方部の道路には適さない。インソーシング(Insourcing)基盤ITS方式を都心の全道路に設置するのは経済的でないが、地方部の道路には効率が良い。
本研究では、インソーシングとクラウドソーシングを組み合わせたインターソーシング(Intersourcing)基盤ITS運営方式についての提案内容を発表した。
パネル討論 <座長>和田 卓 JICE道路政策グループ 副総括
谷口 宏 JICE道路政策グループ 上席主任研究員
秋山 聡 JICE道路政策グループ 主任研究員
金 鍾 旻 KICT基盤施設研究本部 道路研究室 首席研究員
文 炳 燮 KICT基盤施設研究本部 尖端交通研究室 首席研究員
W.共通課題発表・討論(河川セッション)
  内    容 発 表 者
発表1 河川のPDCA サイクル型維持管理体系について 柳澤 修 JICE河川政策グループ 首席研究員
限られた予算の中で、効果的かつ効率的に河川維持管理の目的を実現するためには、Plan-Do-Check-Actionサイクル型維持管理体系を構築し、各河川の特性を踏まえた河川の維持管理の水準を定め、河川や地域の特性に応じた順応的な河川維持管理を行っていくことが重要である。
本研究では、国や都道府県における河川維持管理指針(案)の3年間の試行を踏まえ、河川の維持管理の規範となる基準化について検討を行い、順応的河川管理への転換、PDCAサイクルを維持するための仕組みの構築、効率的な河川維持管理の実現、見える河川管理を目指して取り組んだものであり、この成果についての発表を行った。
発表2 河川施設の効率的な維持管理のための行政及び技術指針の改定 尹 光 錫  KICT水資源・環境研究本部 河川・海岸港湾研究室長
4大河川再生事業が2011年末に終了する予定となっているなか、河川施設の維持管理の重要性が強調されている。河川法で定められた既存施設はダム、河口堰、堤防、湖岸など13種類があり、この度の4大河川再生事業によって新設される河川施設は多目的堰、川辺貯留池、親水施設、そして、その他にも人工湿地や生態河川などの自然生態空間がある。そのため、建設交通部水資源局によって2005年に発行された河川施設物維持管理マニュアルの増補の必要性が提起されており、河川施設の維持管理の効率化方策や手続きなどが盛り込まれた行政ガイドラインの作成も求められている。
本研究では、従来のマニュアルの構成体系を見直し、最新の技術動向が反映された新しい施設の維持管理方法を検討すると共に、施設物管理者が実務で活用しやすいマニュアル作成の検討を行った。また、施設物管理主体が的確に施設物の維持管理を行うための行政基準を作成することで、最近、要求が高まっている積極的な施設管理基盤の構築を目指して取り組んだものであり、この成果についての発表を行った。
パネル討論 <座長>桑島 偉倫 JICE河川政策グループ 総括
宮武 晃司 JICE河川政策グループ 研究主幹
柳澤 修 JICE河川政策グループ 首席研究員
申 正 容 KICT建設品質政策本部長
尹 光 錫 KICT水資源・環境研究本部 河川・海岸港湾研究室長

セミナー中はもとより、セミナー終了後もセッションごとの担当者との活発な意見交換が行われ、第22回セミナーを成功に終わらせることが出来ました。第22回セミナーの開催準備等にご尽力いただいた皆様に感謝申し上げます。

集合写真