JICE 一般財団法人国土技術研究センター

受賞技術概要

建設分野の新技術への挑戦

    • 第8回国土技術開発賞

優秀賞(国土交通大臣表彰)

圧縮型鋼製ダンパー・ブレース (第8回国土技術開発賞 優秀賞)

応募技術名称圧縮型鋼製ダンパー・ブレース
副題既存構造を傷つけず全柱補強が不要な鉄道高架橋の耐震補強工法
応募者名(株)大林組 ※
技術開発者(株)大林組    岡野素之
          喜多直之
東海旅客鉄道(株) 関 雅樹
          吉田幸司
共同開発者東海旅客鉄道(株)

技術の概要

1.技術開発の背景及び契機

 最近の地震被害を受けて,鉄道高架橋の耐震補強が急務となっているが,駅部をはじめ高架下が利用されている箇所の施工に課題がある。店舗や事務所に利用されている場合は,休業補償の面で短工期が望まれており,また施工範囲は最小であることが必要である。一方,柱のせん断破壊対策として,一般にRC柱に鋼板巻立て補強が行われているが,全ての柱に施工する必要があること,既に壁などが柱の周囲に設置されていて施工できない部分があることから,工期が長くなるなど課題が多い。また,ブレースや耐震壁などを増設する方法は,あと施工アンカーを多数施工する必要があり,既存構造物に損傷を与える可能性があることの他,騒音の面でも課題がある。そこで,現場での施工期間が短く,設置範囲を最小とし,既存構造を傷つけない耐震補強工法が望まれていた。

2.技術の内容

 圧縮型鋼製ダンパー・ブレースは,X型ブレースの中央部にせん断降伏部材(鋼製せん断パネル)を組み合わせたダンパーを有する構造であり,ブレース端部は鋼製ソケットを介して無収縮モルタルによって既存構造と接合されている。地震時慣性力によって一方のブレースに圧縮軸力が作用したとき,せん断パネルが変形するとともに,補強架構面と相似形であるダンパー全体が平行四辺形に変形する。その結果,他方のブレースが外側に押し出されて既設高架橋の隅角部に追随する。これを繰り返すことによってダンパーは履歴減衰型の機能を発揮し,ダンパー・ブレース全体が高架橋の応答変位を適切に抑制して破壊を防ぐ。

3.技術の効果

 圧縮型鋼製ダンパー・ブレースは,柱周囲の支障物の改変および既設構造物を傷つけることなく耐震補強が実施できるため,工期・工費の削減に資することができる。特に,移転不可能な設備等が存在する場合には有効な補強方法となる。また,全柱補強を行わなくてよいという利点を生かし,土被りの大きな高架橋などでは,施工の合理化を図ることができる。さらに,本工法では動的解析等による設計を行っているため補強性能が明確であり,高架橋全体の剛性を大幅に高めるので,振動を抑制する等の効果もある。地震時においては,高剛性化が走行安全性に寄与する可能性が高いので,脱線抑止工としても将来性がある。

4.技術の適用範囲等

 圧縮型鋼製ダンパー・ブレースは以下のような条件における高架橋耐震補強に適している。

・高架下が店舗等に利用され,全柱を補強する鋼板巻立て補強の適用に困難を伴う場合
・土被りが厚いなど,補強箇所を減らすことが施工上大きなメリットとなる場合
・高架下に電気通信など移設不可能な設備が存在する場合
・補強の必要な方向が限定されている場合(例えば線路方向のみの場合)

5.技術の適用実績

東海道新幹線内幸町橋高架橋耐震補強工事、平成16年10月

阪神電鉄左門殿川高架橋耐震補強工事、平成18年3月