JICE 一般財団法人国土技術研究センター

受賞技術概要

建設分野の新技術への挑戦

    • 第15回国土技術開発賞

降雨流出氾濫モデル(RRIモデル) (第15回国土技術開発賞 優秀賞)

降雨流出氾濫モデル(RRIモデル) (第15回国土技術開発賞 優秀賞)

ミッション降雨流出氾濫モデル(RRIモデル)
応募技術名称降雨流出氾濫モデル(RRIモデル)
副題世界の大規模洪水を対象にした降雨流出氾濫予測手法
応募者名(独)土木研究所
技術開発者〔(独)土木研究所〕佐山 敬洋

技術の概要

1.技術開発の背景及び契機

 平成23年のタイ洪水のような大規模洪水に際しては、限られた情報をもとに被害の全容を把握し、的確かつ迅速な対応行動が求められる。大規模洪水の浸水範囲を特定するうえでは、衛星による洪水モニタリングの実用化が進んでいるが、被害に直接関係する浸水深とその時間変化を予測することはできない。一方、既往の水文モデルを用いた予測では、山地流域からの降雨流出を再現することに主眼が置かれており、氾濫の影響を考慮することはできない。さらに、既往の氾濫モデルの多くは、破堤地点からの流量を境界条件にして、氾濫水の流れを詳細に追跡するモデルが主流であり、降雨を入力した大規模な洪水氾濫予測には必ずしも適さない。このような背景から、河川流量から洪水氾濫の消長までを流域一体で迅速に解析できる降雨流出氾濫モデル(RRIモデル)を開発した。

2.技術の内容

 本技術は、世界各地で発生する大規模な洪水を準リアルタイムで予測するための技術である。降雨データが乏しい発展途上国であっても、衛星情報を活用することにより簡易にパソコンで計算が可能なシステムとなっており、緊急対応の計画立案にも応用できる。以下に本技術の特徴をまとめる。

1)一体化 : 河道を一次元、陸域(斜面部)を二次元で解析するモデルであり、山地・平野を含む流域に適用可能

2)高速かつ安定的な数値アルゴリズム:チャオプラヤ川流域(16万km2)の5カ月分の流出氾濫計算を2時間で実行可能

3)複雑な水文過程の反映:山地域における側方地中流、平野部における鉛直浸透流、堤防・ダム・放水路等を反映可能

4)緊急対応のモデリングを実現するツール群:衛星降雨や地形情報を応用するためのツール群・マニュアルが完備

3.技術の効果

 平成23年タイ洪水の際には、洪水がピークを迎える以前の10月中旬に第一推定としての予測シミュレーションを実施し、マスメディア等を通じて同洪水の実態を分かりやすいアニメーションで示すとともに、流域下流部では同洪水が11月末まで長期化することを示した。そのタイ洪水を受けて発足したJICAのチャオプラヤ川流域洪水対策プロジェクト(洪水管理システム構築支援)では、流域内の河川流量・水位・広域の氾濫を予測できるモデルとしてRRIモデルが採用され、2カ月という短い期間で暫定版のシステムが完成し、平成24年のモンスーン季からタイ政府や日系企業を対象にした予測情報の発信を開始した。その他、UNESCOによるパキスタン支援プロジェクトにおいても、チャオプラヤ川流域の中下流域に適用する洪水予測モデルとして、洪水ハザードマッピングのツールとしてRRIモデルの応用が進んでおり、対象流域における水災害リスク管理の効率化が期待されている。

4.技術の適用範囲

  • 流域面積 : 100 km2程度の小流域から大流域(インダス川下流域の事例では34万km2)まで
  • 計算期間:洪水イベントから数10年にわたる長期連続計算まで
  • 対象とする水文現象:降雨流出、洪水氾濫、蒸発散、地中流、浸透等

5.技術の適用実績

JICAチャオプラヤ川流域洪水対策プロジェクト(洪水管理システム構築支援)、平成24年7月〜継続中   他1件

写真・図・表