JICE 一般財団法人国土技術研究センター

受賞技術概要

建設分野の新技術への挑戦

    • 第9回国土技術開発賞

最優秀賞(国土交通大臣表彰)

石垣修復支援システム (第9回国土技術開発賞 最優秀賞)

応募技術名称石垣修復支援システム
副題3Dモデル配置システム
応募者名清水建設(株)(※:規程により、当該法人に所属する技術開発者を表彰いたしました。 )
技術開発者〔清水建設(株)〕山内裕之・吉田 順/〔宮内庁管理部〕根岸明・冨沢和義/
〔(株)計測リサーチコンサルタント〕西村正三・藏重裕俊/
〔日日石材(株)〕渡辺昌照・村上金治
共同開発者宮内庁管理部/(株)計測リサーチコンサルタント/日日石材(株)

技術の概要

1.技術開発の背景及び契機

平成17年より「皇居東御苑内本丸中之門石垣修復工事」を実施した。この中之門石垣は、特別史跡江戸城跡に指定されており、文化財調査の実施とその記録が求められた。また、この石垣は最大で36tもの重量の巨石で構築されていたことから、修復には高い精度でかつ効率的な施工が要求された。

石垣の修復に当たっては、「空積み」という裏込めにコンクリートやモルタルを使わずに、割栗石や砂利を用いて石を積み上げる方法をとることから、目地にモルタルを用いる練積みの石積に比べ石工の持つ伝統的かつ経験的なノウハウ(匠)への依存度が高いため、経験豊富な有能な石工であっても石垣の積み直し作業は避けることはできず、これによる工期の延長やコストの増加といったリスクが常に課題となっていた。

そこで、発注者、測量・調査業者、石工とゼネコンがそれぞれもつ専門かつ得意とする技術を融合させ、3次元シミュレーションなどの先端技術を活用した「石垣修復支援システム」を開発することとした。

2.技術の内容

本システムは、対象とする石垣の形状や石垣を構成する個々の石材の形状を3次元レーザー等により測量・記録する「調査記録サブシステム」と、それらモデル化して3次元コンピュータグラフィクスによってコンピュータ上で石垣の修復を再現する「会話型石積み設計サブシステム」と、これにより再現された石垣を2次元個別要素法(DEM)により地震時安定解析を行う「石垣安定検討サブシステム」の3つのシステムにより構成している。

特に、「会話型石積み設計サブシステム」は、設計段階から「発注者の要望」や「石工の持つ伝統技術のノウハウ」などを設計者(オペレータ)が随時設計に導入することが可能なシステムであり、個々の石材を石工の指導通りにコンピュータ上で組立て、石材同士の干渉の有無を判定しながら微調整を繰り返すことで、あらかじめ最適な石垣の組立形状をシミュレートするものである。これにより、実施工時における施工誤差を数cmと極めて小さく、かつ積み直し作業も極めて少なくすることを実現した。

本「石垣修復支援システム」は、石工の持つ伝統技術のノウハウ(匠)を効率的かつ効果的に取り入れることで、確実に美しい石垣を修復することができる実証された技術であり、文化遺産である多くの城郭の石垣、石橋などの石材建造物の修復工事等に適用が期待できるものである。

3.技術の効果

(直接的効果)

  • 石垣の積み直しに伴う工費及び工期のリスクが大幅に縮減。

 (皇居東御苑内本丸中之門石垣修復工事による試算では、石垣表面積で30%の積み直しが予想されたが、7%の積み直しで済んでいる。工期、工費で大きくリスクを縮減)

  • 最先端のIT技術の導入により、石垣の文化財記録と高精度な修復が可能

(間接的効果)

  • 石工の持つ伝統的かつ経験的なノウハウ(匠)の継承と効率的かつ効果的な事業への導入。

4.技術の適用範囲等

  • 城郭の石垣に加え、石橋やアーチ門などの石材構造物の修復及び新設工事への適用が可能。

5.技術の適用実績

皇居東御苑内本丸中之門石垣修復工事   H17年8月〜H19年3月

写真・図・表

  • 写真−1 皇居本丸中之門石垣全景
  • 写真−2 石垣巨石解体状況

図−1 3Dレーザー測量

図−2 石垣3DCG鳥瞰図

  • 写真−3 パソコンデータ処理状況
  • 写真−4 設計への石工の参加
  • 図−3 石材3DCG処理
  • 図−4 石垣3DCG処理